在庫管理システムで失敗しないために~システム検討時の注意点~

2018年12月13日


企業で使われる基幹システムには様々な機能が搭載されています。製造業、卸売業、小売業、建設業等、業界によっても必要な機能は様々ですが、多くの業界に共通して必要とされるのが在庫管理の機能です。在庫管理は、販売管理、調達管理、生産管理、原価計算、会計等様々な業務・システムと連携が必要であり、広い範囲に影響を及ぼす大切な領域です。今回は、在庫管理システムにおける一般的な機能やシステム化が難しい要件等を確認していきます。


基幹システムがカバーする在庫管理の範囲

在庫管理とは文字通り、企業の在庫を管理する業務ことです。ですが、その業務の全てが必ずしも基幹システムの対象範囲とは限りません。基幹システムでは、在庫の増減を記録することにより、その数量や金額を管理することがメインの目的です。それ以外の在庫管理業務については基幹システムではカバーせずに、個別のシステムを用意することも少なくありません。例としては、以下の様なものがあります。

 

・在庫棚割り
倉庫や店舗における在庫の配置を管理するシステムです。
棚の番号(A-32等)までは基幹システムで記録することもありますが、棚の空き状況等も紐づけて管理するとなると、倉庫管理システムや店舗での棚割り管理システムといった専用システムを用いることが多いです。

 

・在庫の規格・品質管理
在庫の規格(サイズ、重量、原材料、成分 等)や品質情報(品質検査の結果及びその分析)等の管理は、一般的な基幹システムの情報だけでは、対応が難しいことが多いです。製造業であれば、生産管理や製造装置と連携した品質管理システム、食品を取り扱う業界であれば食品規格管理システム等の専用システムも販売されています。

 

・在庫の輸配送
在庫を輸配送する際は、依頼をするところまでは基幹システムに含めることも多いですが、その先は基幹システムの外で管理することも少なくありません。具体的には、輸配送する在庫のサイズ・重量を踏まえたトラックの手配、輸配送経路の検討のような領域です。こちらも、輸配送管理システム等の専門システムが販売されています。

 

いずれも、基幹システムが管理する数量、金額の情報以外の情報も多数必要となります。特にパッケージシステムの場合、これらの機能が搭載されているような基幹システムはほとんどなく、大規模なカスタマイズを行うか、個別に専門システムを検討せざるを得ない、というのが実情です。

 

 

在庫管理システムが有する一般的な機能

ここからは、在庫管理システムが搭載している一般的な機能を確認していきます。
先にも述べましたが、基幹システムは、在庫の数量と金額を管理するのが主目的です。そのために必要なものが最低限の機能と言えます。多くの在庫管理システムに共通している機能は次の通りです。

 

・入出荷管理
在庫の入出荷(※)情報を記録し、在庫数を把握するための機能です。入出荷の実績に加えて、予定情報も含まれます。予定情報も含めることにより、有効在庫数量(≒出荷が決まった物を除いた取扱い可能数量)や予定を加味した将来在庫数の管理も可能になります。

 

※入荷・出荷に似た言葉に入庫・出庫という言葉があります。これらは分けて使われることも多いですが、この記事上では次の意味で使用しています。
・入荷:倉庫や店舗等の施設へ物を搬入し所定の場所(棚等)へ置くこと
・出荷:所定の場所に置かれた物を取り出し施設外へ搬出すること

 

・在庫評価
在庫の価額を評価する機能です。会計基準に則って、個別法、総平均法、先入先出法等により、ある一時点の在庫品の金額や一定期間の出荷品の金額を算出します。また、価値が大幅に下がった在庫がある場合は、会計上、価値の切り下げを行うことがあり、そのための機能も含まれます。

 

・棚卸管理
在庫の実地棚卸を行い、システム上の数量を実数に修正するための機能です。棚卸表の印刷や棚卸結果の登録を行います。応用的な機能として棚卸頻度や棚卸実施担当者、棚卸日程等を管理する機能まで含めることもあります。

 

基幹システムの在庫管理機能では、上記機能が無いことはほとんどなく、多くの企業において業務上必須な機能、と言えます。が、周辺に様々な業務、システムが関わることもあり、上記に述べた機能から派生した領域までカバーしているケースも少なくありません。

 

在庫管理における特殊な要件

ここでは、特殊な要件の例として、ユーザーサイドから要望が上がることが多いものの、実現するのが難しい要件の例を何個か挙げてみます。

 

・在庫計画(需要予測・シミュレーション)
在庫の推移を予測し、いつ、どの時点で何が何個必要かをシミュレーションするための機能です。需要を予測するためには、既に確定した入出荷だけではなく、近い将来の予測(月末頃にはA社から○個の注文があるはず)も必要になります。また、各調達・生産・出荷等のリードタイムを考慮する必要もありますし、セット品であればセット品を構成する商品の在庫も含めて考える必要があります。業務担当者の方の負担が高い作業のため、システム化を希望されることが良くあります。ですが、システム化には各社毎、部門毎、商品毎に、細かな調整が必要になるため、難易度が高い要件と言えます。

 

・目的別管理
得意先A社用、B部門用、営業担当者C用等の単位で、商品の取り扱い上限数を定めることがあります。また、それ以外にも輸出用、セット品用のように、在庫を分けて確保することもあります。このように同じ倉庫にある同一商品を目的によって分けて管理したい、というのも良く出る要望の1つです。こちらについては、単純な区分であれば、管理用の仮想倉庫(A倉庫をシステム上はA-1倉庫、A-2倉庫に分けて登録)で管理することができますが、部門毎の管理×得意先毎の管理が必要という場合は、仮想倉庫が膨大な数となり、運用を考えると非現実的です。企業毎に管理したい粒度も異なることが多く、パッケージシステムでも個別に設計・開発が必要になることが多いです。

 

・社内売買価格
部門毎の業績管理を行うため、部門間の在庫移動を売買のように管理したい、という要望も良く出る要件の1つです。仮にA部門が100円で仕入れた物であれば、B部門に渡す際に110円で売る、ということになります。その結果、B部門は110円の在庫を持つことになりますが、実際に売れた訳ではありませんので、会計上は100円という情報を保持し続ける必要があります。この管理を行うためには、1つの在庫に対して2つの金額を持たせる必要があります。そうなるとシステムの中身が非常に複雑になり、大掛かりな機能が追加されることになります。

 

以上、難易度が高い要件を見てきましたが、いずれも、普段の業務の中では、当たり前のように出てくる話です。が、システム化しようとすると要件が複雑になり、コストも膨らみます。その結果として、システム化を断念する、という結論に至るケースも多くあります。

 

 

在庫管理システムの要件を整理する際の視点

最後に、在庫管理システムを検討する際の留意点について考えていきます。繰り返しになりますが、在庫管理は様々な業務に関連します。また、現場からの要望も多種多様です。その全てをシステム化していくのは現実的ではありませんし、システム投資コストも膨らみます。

 

そのような幅広い要望を整理していくためには、「会社の経営戦略と照らして重要性が高いか」「基幹システムに本当に必要な機能か」といった原則的な視点から考えるのが効果的です。例えば、冒頭に上げた様な、棚割り、商品規格、輸配送に関するような要素であれば、必ずしも基幹システムに取り込む必要は無く、別システムを構築し、基幹システムと疎結合する形の方が投資対効果が高まる可能性があります。また、例えば輸配送業務を見直ししよう、となった場合に、システムを入れ替えやすい、というメリットもあります。専門システムが不要な規模の仕組みであれば、Excel等で対応する、と割り切ってしまうことも1つの手です。

 

基幹システムを企画・検討する際には、システム化を希望される業務領域を「経営戦略」、「基幹システム」という俯瞰的な視点から見ることにより、システムに組み込むべきか否かを判断できることも多くあります。

 

 

 

まとめ

■基幹システムがカバーする在庫管理の範囲
・基幹システムでは数量や金額の管理が中心
・棚割りや規格・品質、輸配送等の業務は基幹システムと別に考えることが可能
在庫管理システムが有する一般的な機能
どの企業にも共通する機能範囲は次の通り
入出荷管理/在庫評価/棚卸管理
■在庫管理における特殊な要件
システム化が難しい特殊要件の例は次の通り
在庫計画(需要予測・シミュレーション)/目的別管理/社内売買価格
■在庫管理システムの要件を整理する際の視点
次のような視点を持って必要性を検討する必要あり
・会社の「経営戦略」と照らして重要性が高いか
・「基幹システム」に本当に必要な機能か

 

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