J-SOX運用状況評価の重要論点~母集団の特定~

2019年07月04日

 

内部統制評価の中でも、大きな比重を占めるのが運用状況評価です。運用状況評価は、定義されている統制が継続的に実施されているかを確認するため、年間を通じて、複数案件の証憑をサンプリングし、評価を行います。この運用状況評価を行う上でポイントとなるのが母集団です。母集団を適切に特定した上で、対象案件を選定することが必要です。最近では、監査法人から、特定した母集団が適切であるかを検証してほしいという要望が出るケースもあり、内部統制対応を進める上で、母集団は重要な論点になります。

 

今回は、概要から特定方法といった基礎から、効率化・網羅性検証といった応用まで、母集団に関する解説をしていきたいと思います。

 


母集団とは

『母集団』とは、評価対象期間における案件(取引)の総件数を言います。仕訳データや受注案件一覧等、取引の総件数や内容を把握できるものを指します。週次や月次の統制等、取引が定期的に行われるものは、母集団を収集する必要はありませんが、随時統制においては、取引の総件数によりサンプリング件数が変動するため、母集団を特定する必要があります。
取引件数が多いもの(日次と同程度の件数)であれば25件、取引件数が少ないものであれば母集団の10%をサンプリングし、評価を行います。なお、随時統制のサンプリング件数は、監査法人によって基準が違うので留意してください。

 

母集団とサンプリング件数の関係については、以下の記事も参照してください。
業務プロセス統制の評価方法~ウォークスルーとサンプリングテスト~

 

適切に母集団を特定するためには、対象部門の担当者と認識合わせをしておくことをお勧めします。取引の総件数や案件を特定するため、どのデータを利用するのが良いかは、業務を熟知している現場部門の担当者に確認するべきです。

 

サンプリングを円滑に進めるため、コントロール内容やサンプリングの目的を現場部門の担当者に伝え、その上で母集団を特定するのが望ましいと考えます。

 

対象案件の選定

母集団を特定した後に、サンプリング対象とする案件の選定を行います。対象案件(取引)は乱数表等を利用し、無作為に抽出します。内部監査人の感覚から、特定の期間や案件をサンプリング対象としているケースも見受けられますが、J-SOX対応においては、内部監査人の主観を入れず、無作為に対象案件を選定することが求められます。

 

対象案件を選定した後に、現場部門に該当する証憑の収集を依頼します。その際、伝票番号や取引日等、案件を特定できる情報をできるだけ明確にすることをお勧めします。対象案件が明確であれば、現場部門から質問を受けることも減り、効率良くサンプリングを進めることができます。

 

また、評価結果を監査法人に提出する際、どの案件を選定したかの記録も合わせて提出することが求められます。
会社評価で選定した案件と別の案件を監査法人が選定することに利用されます。そのため、案件を特定できる情報を明確にすることは重要です。

 

母集団の共通化による評価効率化

次に、応用として、母集団を共通化することにより、評価の効率化を行った事例を見ていきたいと思います。基本的には、キーコントロール毎に母集団を設定し、対象案件を選定する形になりますが、1つの母集団により、複数のキーコントロールにおける対象案件を選定することもできます。

 

例えば、売上プロセスにおいて、受注登録→売上申請→請求書発行というステップがあり、各キーコントロールに、「受注伝票」・「売上伝票」・「請求書」という関連証憑があるとします。
この証憑と母集団データの内容が対応していれば、キーコントロール毎に母集団を設定せず、1つの母集団で各キーコントロールのサンプリングをすることが可能です。
日付や取引内容等、対象案件を選定し、その案件に紐づく「受注伝票」「売上伝票」「請求書」をサンプリングする形になります。

 

1つの母集団で複数のコントロールに対する案件を選定できれば、対象案件の選定や証憑収集に係る工数を削減することができます。母集団を共通化するためには、コントロールがどの勘定科目に関連するかに着目します。
勘定科目が同じコントロールは、母集団を共通化できる可能性があります。

 

母集団変更による評価効率化

母集団に関連する評価効率化の事例をもう1つ紹介します。母集団自体を変更したことにより、評価の効率化を実現した事例です。一般的には、統制頻度が少ない方が証憑収集の工数は少なくなりますが、母集団の考え方を変えることによって、証憑収集の工数を削減することができた事例です。
以下のコントロール・評価手続のようなケースになります。

 

(例)
◆コントロール
月末に、課長が売上集計表と請求書の金額を付け合わせて、承認する。
◆評価手続
①売上集計表と請求書の金額の一致を確認する。
②課長が売上集計表を承認していることを確認する。

 

母集団を売上集計表(統制頻度:月次)とすると、サンプリングする証憑は、売上集計表(2件(2か月分)+請求書(200件(2か月分))で合わせて202件の証憑を収集することになります。
※請求書は1か月当たり100件発行する前提

 

しかし、母集団を請求書(統制頻度:随時)とすると、サンプリングする証憑は、売上集計表(9件(9か月分)+請求書(25件(9か月間の中でランダムに選定))で合わせて34件の証憑を収集することになります。
※評価対象期間は9か月とする前提

 

統制頻度の少ない月次の方が評価作業の工数は低いと考えますが、このようなケースでは、統制頻度を随時とすることにより、結果的に、証憑収集の工数を削減することができます。

 

統制頻度だけでなく、サンプリング証憑の総件数にも着目することにより、サンプリングの負荷が軽減できます。

 

母集団の網羅性検証

最後に、『母集団の網羅性検証』について、触れたいと思います。最近、内部統制対応を進める中で、監査法人から母集団の網羅性を検証してほしいという要望を受けることが増えています。『母集団の網羅性検証』とは、設定した母集団が評価対象期間における全取引を反映しているかを確認するものになります。

 

通常、母集団データは現場部門の担当者が抽出しますが、不正取引に関わるデータ等、恣意的に一部の取引が削除されていないかを確認することが目的になります。

 

母集団の網羅性を検証する方法としては、以下があります。

 

(母集団検証方法の例)
・仕訳データと母集団データを突合し、総件数が合っているかを確認する
・現場部門の担当者が母集団データを抽出している場に評価者が立ち合い、母集団と抽出したデータの件数が一致していることを確認する

 

検証した内容やその結果は評価調書に記載し、監査法人に提出します。

 

母集団の検証を進める上で必要となるデータや検証方法については、監査法人に事前に確認し、進めることをお勧めします。データの抽出については、情報システム部門の協力も必要となる場合もあるため、進め方やスケジュールは事前に調整することが必要です。

 

運用状況評価を進める上で、母集団は重要な要素となります。母集団を誤ると、評価作業の手戻りが発生する可能性があります。運用状況評価を始める前に、担当部門や監査法人と協議を行い、適切に母集団を特定することがポイントです。

 

また、母集団の特定方法によっては、評価の効率化を実現することもできます。母集団に着目し、評価の効率化を検討してはいかがでしょうか。

 

 

 

まとめ

・母集団とは
☑母集団とは、評価対象期間における案件(取引)の総件数を指す。
☑適切な母集団を選定するために、対象部門の担当者と事前に認識合わせをしておく。

 

・対象案件の選定
☑対象案件(取引)は乱数表等を利用し、無作為に抽出する。
☑伝票番号や取引日等、案件を特定できる情報を明確にし、証憑の収集依頼を行う。

 

・母集団の共通化による評価効率化
☑1つの母集団で複数のコントロールに対する案件を選定し、対象案件の選定や証憑収集の工数を削減する。
☑コントロールがどの勘定科目に関連するかに着目し、母集団の共通化を検討する。

 

・母集団変更による評価効率化
☑評価手続を踏まえ、母集団の考え方を変えることにより、評価の効率化が可能である。
☑サンプリング証憑の総件数にも着目して、サンプリングの負荷を軽減する。

 

・母集団の網羅性検証
☑母集団の網羅性検証とは、設定した母集団が評価対象期間における全取引を反映しているかを確認することである。
☑必要となるデータや検証方法については、事前に監査法人やシステム部門と認識合わせを行う。

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