
店舗を展開する企業にとって、本社の指示通りに店舗が日々のオペレーションを行っているかどうかは、非常に重大な関心事です。店舗における不備・不祥事によって、企業や店舗のブランドイメージが損なわれる可能性もあります。こうした状況の中、店舗の運営状況をモニタリングする役割として、店舗監査の重要性が高まっています。一方、内部監査部門の人員は限られており、J-SOX評価や他の内部監査業務への対応もあるため、十分に店舗監査を実施できていない企業もあります。限られたリソースの中で店舗監査を行うには、店舗におけるリスクを考慮し、監査対象とする店舗や監査項目の優先順位付けを行いながら、監査計画を立案することが必要です。本記事では、店舗のリスクや内部監査部門の現状を踏まえながら、店舗監査におけるポイントについて解説します。
店舗を抱えることのリスクと監査の必要性
まずは、店舗を抱えることのリスクについて見ていきます。店舗を複数展開する企業にとって、個々の店舗は売上を生み出し、企業を成長させる重要な収益源です。しかし、店舗数が増加すると、物理的に管理の目が行き届きにくくなるという課題が生じます。監視の程度が弱まる可能性があるため、不祥事、事件、事故といった企業に損失をもたらすリスク要因となり得ます。店舗で発生しうるリスクは以下のような種類に分類できます。
1. 財務・資産に関するリスク
現金不正、商品の盗難/万引き、売上不正、資産紛失等が該当します。これらは資産の喪失や管理責任が問われることにつながり、店舗運営に深刻な影響を及ぼします。
2. 信用・安全に関するリスク
火災や爆発、食中毒、パワハラ/セクハラ、不適切なSNS投稿、顧客情報漏洩、接客態度によるブランド低下等が含まれます。これらが顕在化すると、企業の社会的信頼性を著しく損ないます。
特に、店舗のリスクの深刻さは、1店舗の不備が風評被害を招き、全店舗に甚大な影響を及ぼす可能性がある点にあります。
企業として、業務品質を均一化し、ブランドイメージを維持・向上させることは経営上の重要な命題です。そのためには、社内基準を整備・明文化し、その遵守を徹底する必要があります。店舗監査は、店舗特有のリスクを適時に評価し、不祥事や事故を未然に防止するために積極的に活用すべきものです。さらに、店舗運営側(第一線)自身がリスク管理を行う内部統制の機能強化も求められています。

店舗監査における監査項目の検討
次に、店舗を抱えることのリスクを踏まえ、どのような点を監査していくべきかを解説します。店舗監査の鍵は「現場主義」にあります。問題の発見と改善の糸口は必ず現場にあるため、監査項目の選定や監査チェックリストの作成は、現場の実態に合わせて行う必要があります。また、監査項目を検討する際には、顧客視点に立つことが極めて重要です。実際に顧客が通る入口から店内に入るなど、顧客目線で確認することで、ブランドイメージが損なわれていないかといった重要なポイントに気づくことができます。
効率的かつ一定の監査品質を保つために、事前に監査すべき項目を一覧化した「監査チェックリスト」を作成し、継続的に見直すことが推奨されます。監査チェックリストは、監査の抜け漏れを防ぎ、経験の浅いメンバーでも一定の品質で監査を実施できるようにするためのマニュアルとしても機能します。
店舗における主な監査項目として、以下のものがあります。
1. 現金・レジ管理:レジ開局時に前日有高と一致しているか、別の担当者によるダブルチェックが実施されているか。売り場やレジ周りのストック在庫棚は施錠されているか、鍵が適切に管理されているか。
2. 商品・在庫管理:入荷した商品の検品を入荷日中に行い、納品書と照合のうえ在庫管理システムに登録しているか。また、万引防止のための巡回や声掛けが実施されているか。
3. 不正防止:ポイントカードやアプリ等の運用ルールが周知され、私用付け替えなどの不正対策が講じられているか。社員割引のルールが遵守されているか。
4. スタッフ管理:規定の制服やネームプレートを着用しているか。接客スタッフの服装や爪の状態など、外見がブランドイメージを損なっていないか。
5. 衛生・防犯・法令遵守:清掃状況チェックリストの使用や定期的な清掃が実施されているか。非常口や避難経路に物が置かれていないか。危険物(スプレー缶、香水等)が適切に保管されているか。
監査を通じて問題が発見された場合、その原因が店舗側のルール不遵守だけでなく、本社側(店舗運営部門)のルールの実態不適合や、過度に厳しい人件費率の設定など、組織全体のどこに根本原因があるのかを俯瞰的な視点から特定することが求められます。
監査対象店舗の選定方法
内部監査部門は、店舗数に対する担当者の人数が少ないという人的リソースの制約や、遠方店舗への移動時間や予算といったコスト面の制約を常に抱えています。また、店舗の繁忙期や商業施設のセール時期といった店舗側の都合による制約もあるため、全店舗を毎年監査することは現実的に困難です。
そのため、監査対象店舗の選定においては、リスクベースの考え方とローテーションを組み合わせることが、効率的かつ効果的な監査を実施するための鍵となります。リスクの高い店舗を優先的に監査することで、限られたリソースを最大限に活用し、重要度の高いリスクを低減することを目指します。
事例として、業務オペレーションの難易度および安定性の観点から定量的なスコアリングを用いて、重点監査店舗を選定しています。重点監査店舗は、以下の4つの指標に基づきスコアを付与し、加重平均で指数を算出しています。
・各店舗の売上高:月平均売上高の偏差値に基づき、店舗規模を評価。売上高が高いほど(例:偏差値65以上)高いスコアを付与。
・店舗責任者の在任年数:長期在任(5年以上)は不正の温床となるリスク、短期在任(1年未満)はオペレーション不安定のリスクがあるため、これらの期間に高いスコア(3点)を付与。
・正社員の退職率:離職率が高い場合の運営不安定リスク。小売業界の平均退職率(約30%)に対し、50%以上を異常値(2点)と見なす。
・新規店舗・リニューアルの有無:オペレーションが不安定となるリスクを評価。
定量評価だけでなく、定性的な重要性も勘案して対象店舗を検討することが重要です。具体的には、経営者からの特命案件や、原価に対する減耗率が異常値(過去2年で四半期の減耗率が-1.0%を一度でも超えた場合、またはプラスに転じた場合)を示した店舗などが該当します。
リスクベースで選定された店舗だけでなく、不正発生のリスクを抑えるために、ローテーションを取り入れ、一定の間隔で全ての拠点を網羅的に監査することも必須とされています。

店舗監査における往査のポイント
店舗に赴き、規定類等の整備・周知・運用状況を評価する往査は、店舗監査における中核となる活動です。往査は営業時間中に行う場合が多いため、店舗運営の妨げにならないよう配慮しつつ、お客様目線で確認することがポイントです。お客様が実際に通る入口を使用することで、店内の陳列や清掃状況、スタッフの対応など、来店者としての視点で気づける点があります。往査時の主要な確認ポイントは以下の通りです。
スタッフの外見チェック:接客を行うスタッフの服装、爪の状態、髪型など、外見が企業のブランドイメージを損なっていないかを確認します。
衛生・防犯管理:店舗内の清掃状況や消毒の実施などの衛生管理、非常口・避難経路への物品放置、危険物の適切な保管など、法令(消防法等)への遵守状況を確認します。
資産管理:売り場のストック在庫棚が施錠されているか、鍵が適切に管理されているかなど、鍵および資産管理状況を確認します。
往査時には、店舗運営の妨げにならないよう、往査日時の念入りな調整が必要です。また、女性向けの店舗の場合には女性が往査を担当するなど、来店者に違和感を与えない配慮も求められます。実地確認に加え、店舗責任者だけでなく、パート・アルバイト社員も対象とした現場インタビューは必須です。
現場スタッフは重要な情報を持っている可能性があるため、監査担当者は監査の目的を丁寧に伝え、抵抗感を和らげ、話しやすい環境を整えることがインタビュー成功のポイントです。
企業における店舗監査の重要性は増す一方です。内部監査部門のリソースを加味しながら、重要な店舗・重要な監査項目を選定し、効率性も確保しながら、店舗監査を進めることが必要です。

まとめ
■店舗を抱えることのリスクと監査の必要性
☑店舗のリスクの深刻さは、1店舗の不備が風評被害を招き、全店舗に甚大な影響を及ぼす可能性がある
☑店舗監査は、店舗特有のリスクを適時に評価し、不祥事や事故を未然に防止するために積極的に活用すべきものである
■店舗監査における監査項目の検討
☑監査チェックリストは、監査の抜け漏れを防ぎ、経験の浅いメンバーでも監査を実施できるようにするためのマニュアルとしても機能する
☑監査を通じて問題が発見された場合、組織全体のどこに根本原因があるのかを俯瞰的な視点から特定する
■監査対象店舗の選定方法
☑リスクの高い店舗を優先的に監査することで、限られたリソースを最大限に活用し、重要度の高いリスクを低減することを目指す
☑リスクベースで選定された店舗だけでなく、ローテーションを取り入れ、一定の間隔で全ての拠点を網羅的に監査する
■店舗監査における往査のポイント
☑往査は営業時間中に行う場合が多いため、店舗運営の妨げにならないよう配慮しつつ、お客様目線で確認する
☑監査の目的を丁寧に伝え、抵抗感を和らげ、話しやすい環境を整えることがインタビュー成功のポイントである