決算・財務報告プロセスに係る統制とは~特徴と抑えておくべき実践ポイント

2017年06月29日

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今回は決算・財務報告プロセスに係る統制の構築・評価について考えてみたいと思います。
決算・財務報告プロセスに係る統制(以下決算統制という)は、全社的な観点で評価するものと、個別の観点で評価するものとに分かれているのが特徴です。
決算統制の概要、留意点および悩みどころや解決方法を紹介します。

 


決算統制の概要

決算統制とは、主として経理部門が担当する四半期や年次で行う決算作業における不正や誤謬を防止するための活動を言います。
具体的には会計方針の整備、仕訳・根拠資料の作成から承認までのチェック体制、財務諸表の承認権限等があります。
決算統制は、財務報告に直接影響を及ぼすという点が特徴です。

 

 

決算統制の評価範囲

決算・財務報告に係る業務プロセスは、全社的、個別いずれかの観点で評価します。
評価範囲は以下の通りです。

 

○全社的な観点で評価する決算・財務報告に係る業務プロセス
①総勘定元帳から個別財務諸表を作成する手続き
②連結財務諸表を作成する手続き
③財務諸表に関する開示資料を作成する手続き

 

○個別の観点で評価する決算・財務報告に係る業務プロセス
①リスクが大きい取引に係る業務プロセス
(例)デリバティブ取引、金融取引
②見積りや経営者による予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス
(例)引当金、固定資産の減損損失、繰延税金資産(負債)
③非定型・不規則な取引等虚偽記載が発生するリスクが高い業務プロセス
(例)通常の契約条件や決済方法と異なる取引、期末に集中する取引
一般的に全社的な評価はチェックシート方式、個別の評価は3点セット方式で評価します。

 

 

(※チェックシート方式、3点セット方式とは)
チェックシート方式とは、リスクを包括し、実施すべき統制活動を一覧化して評価する方式です。
3点セット方式とは、業務フロー図・業務記述書・RCMの3点セットにてリスクを洗い出し、業務プロセスの中に組み込まれた統制活動を評価する方式です。
チェックシート方式は、会社の規程や体制等、業務全体を包括する統制活動を評価する際に適しているため、全社的な評価にはこの方式を採用します。
3点セット方式は、3点セットにより財務報告に与える影響が大きい業務プロセスのリスクを発見しやすいため、個別の評価にはこの方式を採用します。

 

決算統制の留意点

○留意点
(構築)決算・財務報告に係る業務プロセスにおける業務の手続きを文書化する。
決算・財務報告に係る業務プロセスについては、業務の専門性が高く、属人的になりやすいため文書化があまり進んでいない傾向があります。
決算・財務報告に係る業務プロセスの業務手続きがあるか経理部門へ確認し、なければ内部統制上での文書化の必要性を説明した上で作成を依頼します。
業務の手続きを確認し、財務報告を誤る可能性が高い処理に関して統制が存在しない場合は、経理部門と協議の元、内容を検討します。
構築した決算統制の内容を手続きに反映し、整備状況評価の文書として使用します。

 

(評価)評価資料は、統制行為に係るものに絞る。
決算・財務報告に係る業務プロセスで使用する決算資料は種類が多いため、運用状況評価でも多くの資料を収集する傾向があります。
第3者が明確に評価できるよう、評価資料は金額等の一致が確認できる資料、権限者の承認の証跡である押印等がされている資料に絞ることをおすすめします。

 

貸倒引当金プロセスの場合、資料および評価ポイントの例は以下の通りです。

資料名 評価ポイント
貸倒引当金計算資料 ・対象債権残高に設定率を乗じた貸倒引当金計上額が記載されている
・貸倒引当金の残高が記載されている
会計伝票 ・貸倒引当金計算資料の貸倒引当金計上額と金額が一致している
・会計伝票に権限者の押印がある
試算表 ・貸倒引当金計算資料の貸倒引当金残高と金額が一致している

 

 

決算統制の悩みどころ

それでは、内部監査部門は決算統制の構築・評価においてどのような悩みを抱えているのでしょうか。
内部監査部門担当者から、以下のようなお声をよく聞きます。

 

○課題
 (構築)人員が不足しており、子会社の決算統制を構築する手が回らない。
親会社では会計方針の整備、仕訳・根拠資料の作成から承認までのチェック体制といった統制が構築されていますが、子会社までは手が回っていない会社様が多いようです。
人員が不足しているため、子会社独自の決算統制の構築が難しいのが現状です。

 

 (評価)3点セット方式にて評価しており、評価工数が削減できない。
決算・財務報告に係る業務プロセスの一部が、3点セットにて評価されており、評価作業の負荷がかかっていると悩まれている会社様がいます。3点セットで評価することにより、文書更新や資料収集の作業負荷が高くなります。
一例として、貸倒引当金プロセスは全社的な観点で評価できる可能性が高いですが、3点セットで評価されているケースが見受けられます。

 

 

決算統制の悩みを解決する方法

それでは、決算統制の構築・評価における悩みを解決する方法を説明します。

 

○構築
 (課題)人員が不足しており、子会社の決算統制を構築する手がまわらない。
(解決策)親会社にて、可能な限りグループ会社共通の決算統制を構築する。
例えば会計方針の整備は、親会社でグループ会社共通の方針を適用している会社が多いため、それをグループ共通の統制として文書化します。
子会社独自で構築するのではなく、親会社でグループ全体を統制することにより、子会社の人員不足をクリアにします。
会計方針に変更があった場合、親会社から子会社へ情報を伝達する仕組みを構築する事も重要です。

決算統制は、連結ベースでの財務報告全体に重要な影響を及ぼす統制であり、親会社にて可能な限り子会社の統制を構築することで、より実効的かつ効率的な統制を構築する事ができます。

 

○評価
 (評価)3点セット方式にて評価しており、評価工数が削減できない。
(解決策)財務報告に重要な影響を与えないプロセスであるか検討し、チェックシートによる評価に変更する。
一例として貸倒引当金プロセスについて、貸倒引当金の計算に必要な貸倒実績率の算定式は、ルール化されており、評価性科目としてのリスクは低いと考える事ができます。
したがって、チェックシートに評価項目を集約し、計上の元資料となる計算資料と会計伝票を評価すれば十分と考えます。

3点セットの評価対象プロセスとして、実施基準では引当金を挙げておりますが、一律に引当金をあてはめるのではなく、リスクを勘案し、最適な評価方式を選定すれば効率的な評価ができると思います。

 

 

最後に、皆さんが決算統制の構築・評価に実際に取り組む前に、お伝えしておきたいことがあります。
決算統制は、他の統制と比較すると業務を行う頻度が低いのが特徴です。
経理部門と連携して決算統制を構築し、評価で不備が発生した場合は早々に改善し、運用を行っていくことが重要です。

 

 

まとめ

決算・財務報告プロセスに係る統制(以下決算統制)とは
主として経理部門が担当する四半期や年次で行う決算作業における不正や誤謬を防止するための統制活動の事
(例:会計方針の整備、財務諸表の承認権限等)

 

決算統制の評価範囲
決算統制は全社的、個別いずれかの観点で評価し、決算・財務報告に係る業務プロセスによって評価範囲は異なる。

 

○全社的プロセス
個別財務諸表作成手続き、連結財務諸表作成手続き、財務諸表に関する開示資料作成手続き

 

○個別プロセス
リスクが大きい取引に係る業務プロセス、見積りや予測を伴う重要な勘定科目に係る業務プロセス、非定型・不規則な取引

 

○評価方式
一般的に全社的な評価はチェックシート方式、個別の評価は3点セット方式で評価する。

 

■チェックシート方式
リスクを包括し、実施すべき統制活動を一覧化して評価する方式
採用理由:会社の規程や体制等、業務全体を包括する統制活動を評価する際に適している。

 

■3点セット方式
3点セットにてリスクを洗い出し、業務プロセスの中に組み込まれた統制活動を評価する方式
採用理由:3点セットにより財務報告に与える影響が大きい業務プロセスのリスクを発見しやすい。

 

おさえておくべき決算統制の構築・評価ポイント
○構築:決算・財務報告に係る業務プロセスにおける業務の手続きの文書化
財務報告を誤る可能性が高い処理に関して統制が存在しない場合は、経理部門と協議の元内容を検討する。

 

○評価:評価資料は、統制行為に係るものに絞る。
第3者が明確に評価できるよう、評価資料は、金額等の一致が確認できる資料、権限者の承認の証跡である押印等がされている資料に絞る。

 

決算統制の構築・評価の実践ポイント
○構築:親会社によるグループ会社共通の決算統制の構築
会計方針等親会社でグループ全体の方針を整備しているものは、それをグループ共通の統制として文書化する。

 

○評価:財務報告に重要な影響を与えないプロセスを検討し、重要性が低い場合はチェックシート方式の評価に変更
貸倒引当金等評価性科目としてのリスクが低いプロセスは3点セットによる評価方式を廃止し、全社的なチェックシート方式で評価する。

 

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