内部統制評価効率化のポイント~評価業務負担軽減のヒントとなる効率化事例~

2024年04月18日

 

内部統制実施基準の改訂により、「新たに拠点の全社統制の評価が必要となった」「質的な重要性により業務プロセス統制の評価範囲が増えた」等、内部統制評価の業務負担が増加してるケースや、内部監査部門において人事異動や退職等で人材が不足しているケースが見受けられます。そういった課題を解決するため、内部統制評価の効率化に着手することをおすすめします。効率化することで無駄な部分が取り除かれ、その分負担が軽減されます。また、評価スケジュールを見直し、分散化や平準化することも業務負担の軽減に繋がることがあります。

 

今回は評価作業における負担が大きい全社統制・IT全社統制・業務プロセス統制について、評価業務における負担軽減のヒントとなる事例をご紹介いたします。

 

全社統制・IT全社統制評価の効率化事例~評価項目の改善~

 

まずは全社統制・IT全社統制の評価効率化事例です。全社統制は6つの基本的要素ごとに評価項目の例示がされており、合計42の評価項目があります。この42項目を参考に評価を行うことが一般的ですが、評価項目を細分化している会社様も見受けられます。評価項目が多ければ、それだけ作業が増えます。評価方法を見直し、評価の効率化が実現した事例をご紹介いたします。

 

事例①評価内容・評価手続の比較による評価項目の削減
評価項目間で評価内容と評価手続を比較し、重複している評価手続を統合します。
(例)
下記の評価内容は、両方とも社内外通報体制の項目です。この場合、評価手続を統合したうえで、どちらかの評価項目を参照する形にします。
№29:内部通報の仕組み等、通常の報告経路から独立した伝達経路が利用できるように設定されているか。
№30:内部統制に関する企業外部からの情報を適切に利用し、経営者、取締役会、監査役又は監査委員会に適切に伝達する仕組みとなっているか。
№29評価手続(統合後):内部通報規程を閲覧し、社内外に通報窓口が設置されていること、内部通報規程が周知されていることを確認する。また、取締役会議事録を閲覧し、財務報告に係る通報が報告されていることを確認する。
№30評価手続(統合後):№29の評価を参照する。

 

事例②子会社の評価項目における親会社評価への依拠
子会社において親会社の規程に準拠している場合や、親会社において子会社の機能の一部を担っている場合、親会社評価へ依拠することで子会社の評価項目を削減することが可能です。
(例)経理機能・内部通報制度・人事採用や教育等

 

評価項目を削減することで、重複した証憑の収集やチェックリスト更新の工数削減が期待できます。

 

 

業務プロセス統制評価の効率化事例~コントロールの削減~

 

次に業務プロセス統制の評価効率化事例です。内部統制評価では設定した全てのコントロールの評価を行う必要があり、「コントロールが多く、負荷が大きい」と感じている方もいらっしゃいます。コントロールを削減できれば必要となる証憑の数が減り、証憑収集を行う現場部門、証憑確認を行う内部監査部門の負担軽減に繋がります。

 

事例①類似するフローのプロセス統合
担当部門や業務内容が異なることから、売上別・商品別・仕入資材別等でプロセスを分け、3点セットを作成されているケースが見受けられます。それぞれ部門や業務が異なる場合でもフローが同一であれば、プロセスを統合することが可能です。例えば、A売上とB売上の受注~売上計上まで、使用するシステムや承認ルートが同一であれば統合できる可能性があります。A売上とB売上を1つのプロセスとすることで、別々に評価していたコントロールを削減できます。同様に契約や受注・売上計上等のサブプロセス単位でもフローが同一であれば、統合することが可能です。例えば、C売上・D売上の売上計上における起票部門・承認者等が同一であれば、統合できる可能性があります。C売上・D売上を1つのフローとすることで、別々のプロセスで評価していたコントロールが削減されます。

 

事例②コントロール内容の見直し
不要なコントロールを削減することで、内部統制評価の質の向上にも繋がります。下記のコントロールは、自己チェックとなっており、コントロールに該当しません。入力者以外の者によるWチェックや上長による入力確認等がコントロールとなります。
(例)
リスク:システムへの入力を誤るリスク
コントロール:担当者はA資料を基にシステムへ入力する。入力後、システムから出力したB資料とA資料を照合し正しく入力されていることを確認する。

 

設定されているコントロールの見直しやプロセス間のコントロールを比較することで、不要なコントロールを削減できます。

 

 

業務プロセス統制評価の効率化事例~評価調書の見直し~

 

次は評価調書に関する効率化事例です。内部統制評価では整備状況評価と運用状況評価、ロールフォワード評価を行います。評価結果を取りまとめた成果物が「評価調書」です。評価調書は各社でフォーマットや記載方法は異なり、コントロールごとにシートを分けて作成するケースや、評価結果を長文で記載しているケース等様々です。内部統制報告制度の適用以降、評価調書の見直しが行われていない会社様が多いのではないでしょうか。評価調書のフォーマットや記載項目を見直すことで、評価の効率化が実現できます。

 

事例①RCMとの統合
評価では、RCMに記載されているコントロール内容の実施状況を確認することになります。評価調書にRCMの内容を転記しているケースが多いと思います。RCMと評価調書を一体としたフォーマットを使用することで、更新時の工数削減や転記ミスを防ぐことにも繋がります。一つのファイルに集約することで見やすさも向上します。

 

事例②評価調書の記載項目・記載内容の簡素化
記載項目を必要最低限にすることで、入力工数を削減できます。RCMと重複している項目は削減の対象になります。例えば、コントロール内容や統制実施部署・実施者等はRCMで確認することが可能です。また、記載内容を簡素化することも有効です。評価結果欄は文章ではなく、〇×のみで記載したり、評価した案件の詳細は記載せず、サンプリング番号や案件が特定できるコードを記載する方法もあります。

 

評価調書を簡素化することで、評価過程や評価結果が分かりにくいものになっては本末転倒です。評価証憑へのマーキングや例外事項にはメモを残す等のルール作りがポイントです。

 

 

業務プロセス統制評価の効率化事例~評価期間の見直し~

 

業務の平準化視点で評価業務負担軽減のヒントとなる事例のご紹介です。J-SOXでは期末における内部統制の有効性の判断が必要となり、通常、毎期運用状況評価を実施します。3月決算の場合、4月~12月を評価期間としているケースが多いです。その場合、繁忙期と重なる時期に運用状況評価を行うことになり、現場部門、内部監査部門において負担を感じている会社様もいらっしゃいます。評価期間を見直すことにより、その負担を分散化または平準化することができます。

 

事例①運用状況評価を上期・下期に分けて実施
(例)上期:4月~7月 下期:8月~12月
上期は8月~10月・下期は1月~3月の期間で評価を行うことになります。都度または随時統制の場合、従来1月以降に最大で25件評価していたところ、サンプル件数を期間按分(例:上期12件・下期13件)することで、評価の負担を分散することが可能です。また、整備状況評価と上期運用状況評価を一緒に実施することも有効です。フロー変更点の有無を確認し、整備状況評価と運用状況評価の証憑を一緒に収集することで、現場部門の負担が軽減されます。上期の評価において不備が発生した場合、下期に向けて改善できるというメリットもあります。

 

事例②運用状況評価の対象期間を6か月とする
(例)4月~9月
従来1月以降に運用状況評価を実施していたところ、評価対象期間を6か月とすることで、10月~12月に評価を行うことになります。そのため余裕をもって評価期間を取ることができ、業務の平準化に繋がります。特に複数の子会社や事業拠点が評価対象となりプロセス数が多い場合に、期末後まで評価対応に追われてしまうケースが見受けられ、そういったケースでは評価期間を見直すことが有効です。

 

事例①ではロールフォワード期間が3か月のため、4月以降で統制変更の有無を質問形式で確認すれば、問題ありません。事例②では、追加のサンプルテストが必要になりますが、1月を評価対象月とすることで、2月から評価を進めることができ、事例①より長く期間を取ることができます。

 

 

 

内部統制評価効率化における留意事項

 

最後に評価効率化における留意事項となります。新しく採用した評価方法に対しては運用ルールを決めることが大切です。今まで通り進めた結果、文書間の整合性が取れていなかったり、評価の対応が漏れてしまう可能性もあります。そういった事態を防ぐための留意点をご紹介いたします。

 

ポイント①評価効率化の進め方(監査法人との協議)
評価期間や評価方法を変更する場合、早い段階から監査法人と協議することが大切です。監査法人から指摘を受け、効率化案の修正が必要になる等、何度か協議の場を設けるケースが多いです。効率化案を取り纏めた資料を作成し、協議の記録を残し、手戻りが発生しないように進めることが必要です。また、認識の齟齬がないように協議結果を共有しながら進めることで、認識の齟齬による評価のやり直しを防ぐことにも繋がります。

 

ポイント②他のプロセスの評価に依拠する際の注意点
業務プロセス統制において、決算統制等他の統制の評価結果に依拠するケースや、子会社において親会社の評価結果に依拠するケースがあります。会社や拠点、売上ごとに内部監査部門で担当が分かれている場合、参照先のフロー変更の把握が遅れ、知らない間に依拠できなくなっていることがあります。参照元と参照先の対比表を作成する等、管理方法のルールを決めることをおすすめします。

 

評価効率化に着手したものの記録を残していないため、根拠が不明確になり検討が無駄になってしまうことや、運用方法を検討していないことで適用後に無駄な工数が掛かってしまうことを防ぐためにも、ポイント①②を参考に協議の進め方や適用後の運用についても検討することが大切です。

 

 

 

まとめ

 

評価効率化を検討する際は、まず評価期間等の全体から着手し、コントロール等の部分的な検討を行うことが、手戻りがなく効率的に進めるためのポイントです。効果的な事例を参考に検討してみてはいかがでしょうか。

 

■全社統制・IT全社統制評価の効率化事例~評価項目の改善~
・評価内容と評価手続が重複している項目を洗い出し、評価手続を統合のうえ評価項目を削減する。
・規程を準拠しているケースや機能の一部担っているケースの場合、親会社の評価結果に依拠する。

 

■業務プロセス統制評価の効率化事例~コントロールの削減~
・使用するシステムや承認ルートが同一であれば、プロセスまたはサブプロセス単位で統合する。
・コントロール内容を見直し統制として機能していないコントロールを削除する。

 

■業務プロセス統制評価の効率化事例~評価調書の見直し~
・RCMと評価調書を一体としたフォーマットを使用する。
・RCMと重複または似た内容を記載している項目を削除する。

 

■業務プロセス統制評価の効率化事例~評価期間の見直し~
・運用状況評価を上期・下期に分けて実施する。
・運用状況評価の対象期間を6か月とする。

 

■内部統制評価効率化における留意事項
・評価期間や評価方法を変更する際は、早めに監査法人と協議をする。
・他のプロセスの評価結果に依拠する場合、対比表を作成して管理する。

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