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グローバル内部監査基準~改訂のポイントと内部監査部門に求められる役割~

2025年02月20日

 

2024年1月に、内部監査の指導的役割を担う国際機関のIIA(The Institute of Internal Auditors・以下IIA)から、改訂されたグローバル内部監査基準が公表されました。2017年の改訂から7年振りに改訂されたものです。それをうけて、2024年7月に、日本内部監査協会から、日本語版のグローバル内部監査基準が公表されました。新たに公表された基準は2025年1月から適用されます。今回の改訂の主な狙いは以下の3つが挙げられます。
1、世界中の実務家やステークホルダーから要求されている質の高い内部監査実施のニーズに応えること
2、現在のトレンドに合った内部監査実務に対応すること
3、監査ガバナンスを強化すること
これを踏まえ、内部監査部門には、取締役会、最高経営責任者、ステークホルダーの期待に応えているか、質の高い内部監査へのニーズに応えているか等の観点からこれまでの活動内容の見直し、それらに応えていない場合は応えるための新しい活動を検討する等、新しいグローバル内部監査基準対応に向けた準備が求められます。今回の記事では、グローバル内部監査基準改訂のポイントと内部監査部門に求められる役割を解説していきます。

 

グローバル内部監査基準改訂の概要

2024年のグローバル内部監査基準の改訂では、属性基準および実施基準の区分けを廃止したこと、解釈指針や適用準則の廃止といった基準の枠組みに関する改訂もありましたが、この点は実務において、大きな影響はありません。実務に関連する改訂のポイントとしては、以下があります。
1、取締役会による内部監査部門の監督
(1)内部監査部門長とコミュニケーションを図り、内部監査部門に対する期待をどのように果たしているか理解する
(2)内部監査部門の業務の優先順位を決める支援をするために、組織体の戦略、目標およびリスクに関する取締役会の見解を伝える
2、内部監査の戦略
(1)内部監査部門のビジョン、戦略目標、およびこれらを支える取組みを内部監査部門の戦略に含める
(2)組織体の戦略および目標に加え、取締役会や最高経営責任者の期待を内部監査部門の戦略に含める
3、内部監査の手法
(1)例示列挙されている技術
①監査管理システム
②ガバナンス、リスクマネジメント、およびコントロールのプロセスのマッピングアプリケーション
③データサイエンス、およびデータアナリティクスを支援するツール
④コミュニケーション、および協働を支援するツール
4、発見事項・結論の評価
(1)発見事項の重大性を評価・判断することが求められる
(2)個々の内部監査業務の結論には、各発見事項を集めて評価した総合的な重大性の判断を要約することが求められる

 

今回は、この中でも、内部監査部門の業務に影響が大きい「2、内部監査の戦略」「3、内部監査の手法」「4、発見事項・結論の評価」を解説していきます。また、グローバル内部監査基準改訂によって、内部監査部門に求められる役割について解説します。

 

 

グローバル内部監査基準改訂の解説~内部監査の戦略~

グローバル内部監査基準改訂の1つ目として、「内部監査の戦略」の解説を進めていきます。「内部監査の戦略」としては、以下の内容が挙げられています。
内部監査の戦略(「基準9.2」)
内部監査部門長は、組織体の戦略目標と成功を支援し、取締役会、最高経営者およびその他の主要なステークホルダーの期待事項に沿う内部監査部門の戦略を策定、実行しなければならない。

 

「内部監査の戦略」におけるポイントとしては、内部監査の役割は、組織体の戦略と目標の達成を支援するということです。また、取締役会、最高経営責任者、ステークホルダーの期待に応えることが挙げられており、質の高い内部監査へのニーズに応えることです。内部監査部門長は、取締役会および最高経営責任者と意見を交換し、内部監査部門のビジョンと戦略目標を策定する必要があります。これは、2017年に改訂されたグローバル内部監査基準にはない新しい要求事項で、現行の内部監査のビジョンや戦略目標にこれらの要素が含まれない場合、追加の検討が求められます。
ビジョンとは、内部監査部門が今後3~5年後に目指すべき姿を指します。内部監査への期待を達成するための方向性を示すものです。また、内部監査人に継続的な改善を促すためのものでもあります。中長期内部監査計画がその一例です。戦略目標は、ビジョンを実現するために、達成可能な目標を定めることを指します。各年度の内部監査計画がその一例です。
内部監査の戦略は、組織体の戦略目標、またはステークホルダーの期待事項に変化があった場合には、都度見直しをするべきです。内部監査が果たすべき役割が、組織体の戦略および目標の達成を支援することであれば、ごく自然なことと言えます。内部監査の戦略を柔軟に見直せるよう、内部監査部門長は、取締役会および最高経営責任者と密にコミュニケーションを取りながら、内部監査の戦略を策定していくべきです。

 

グローバル内部監査基準改訂の解説~内部監査の手法~

グローバル内部監査基準改訂解説の2つ目としては、「内部監査の手法」です。内部監査に関する手法については、基準上、以下のように記載しています。
手法(「基準10.3」)
内部監査部門長は、内部監査部門が内部監査のプロセスを支えるテクノロジーを有していることを確実なものにするように努めなければならない。内部監査部門が使用しているテクノロジーを定期的に評価し、有効性と効率性を向上させる機会を追求しなければならない。

 

「内部監査の手法」のポイントとしては、内部監査部門が現在有している、あるいは導入を検討しているテクノロジーを評価する際の留意事項が示されたことです。内部監査部門長は、以下に留意しなければなりません。
(1)ガバナンス、リスクおよびコントロールについて、他部門と情報を共有すること
(2)テクノロジーの取得および導入により内部監査部門の業務がどう強化されるか検討すること
(3)十分な裏付けのある予算と計画を取締役会および最高経営者に提示し、承認を得ること
(4)承認されたテクノロジーを導入するための計画を策定し、実施すること
(5)テクノロジーの利用に伴って発生するあらゆるリスクを識別し、対策を立案、実行すること
(6)導入計画には、内部監査人の研修含めること。また、導入した結果を取締役会および最高経営者に提示すること

 

「内部監査の手法」における2つ目のポイントとして、戦略立案時や年度監査計画の策定段階で、内部監査業務に与える影響の検証結果を基に内部監査の手法を検討することが求められている点です。「内部監査の手法」のポイント3つ目として、この基準は必ずしも新たなシステム投資を求めるものではないことです。新しいテクノロジーを導入するにしても、現在利用しているIT環境を見直すにしても、内部監査業務に与える影響を検証することが求められています。
内部監査業務に与える影響を検証し、その結果を基に戦略や年度監査計画を策定する必要があります。

 

グローバル内部監査基準改訂の解説~発見事項・結論の評価~

グローバル内部監査基準改訂の解説として、3つ目は「発見事項・結論の評価」です。「発見事項・結論の評価」について、基準には以下のように記されています。
発見事項の評価(「基準14.3」)
内部監査人は、個々の内部監査業務の潜在的な各発見事項を評価し、各発見事項の重大性を判断しなければならない。個々の内部監査業務の潜在的な発見事項を評価する際、内部監査人は、可能であれば根本原因を識別し、潜在的な影響を判断し、問題の重大性を評価するために、経営管理者と協力しなければならない。

 

個々の内部監査業務の結論(「基準14.5」)
内部監査人は、当該個々の内部監査業務の目標と経営管理者の目標に照らして、当該個々の内部監査業務の結果を要約した個々の内部監査業務の結論を作成しなければならない。個々の内部監査業務の結論には、個々の内部監査業務の発見事項を集めて評価した、総合的な重大性に関する内部監査人の専門職としての判断を要約しなければならない。

 

「発見事項・結論の評価」の1つ目のポイントは、発見事項が業務に与える影響の測定です。内部監査部門は、以下の点に留意しなければなりません。
(1)評価結果を簡明かつ平易な言葉で記載すること
(2)現状と評価規準を比較し、発見事項の重大性を測定すること
(3)結論付けた発見事項の重大性を基に、優先順位を付けること
2つ目のポイントは、総合的な重大性の判断とその要約が求められていることです。業務に与える影響の大きさを基に発見事項の重大性測定の根拠、優先順位付けの根拠を報告することが求められています。2017年公表のグローバル内部監査基準では、発見事項および結論の評価・重大性の判断までは要求されていませんでした。
発見事項および結論の重大性の評価を実施していない内部監査部門は、今後、重大性の判断、優先順位付けの手法を確立したうえで、評価を実施することが求められます。

 

内部監査部門に求められる取り組み

これまで、グローバル内部監査基準の改訂のポイントについて触れてきました。ここでは、グローバル内部監査基準の改訂に伴う内部監査部門に求められる役割を説明していきます。
1つ目のポイントは、グローバル内部監査基準の改訂箇所、内容を把握することです。グローバル内部監査基準を反映させた内部監査のビジョン、戦略目標を策定するには、グローバル内部監査基準の内容を把握しなければなりません。グローバル内部監査基準の内容を把握するためには、改訂箇所を洗い出し、改訂によって、監査実務に及ぼす影響を洗い出す必要があります。
2つ目のポイントは、現在の内部監査部門の戦略、監査計画がグローバル内部監査基準に適合しているかを確認することです。取締役会、最高経営責任者、ステークホルダーの期待を満たしていない等、グローバル内部監査基準に適合していない場合は、計画のみならず、根本の戦略から見直す必要があります。
3つ目のポイントは、取締役会や最高経営責任者の理解を促すことです。どこが改訂されたのか、監査実務にどんな影響を及ぼすのか、その結果、内部監査のビジョン、戦略目標を設定したのか、監査計画がどう変わったのかを共有することで、内部監査に対しての理解を促します。その際、企業体の戦略・方針、および企業体が社会に提供する価値を踏まえたビジョン、戦略目標を絡めて提示することで、より理解を得られることにつながります。
4つ目のポイントは、取締役会や最高経営責任者が担う責任や役割を明確にすることです。最高経営責任者は組織体の戦略決定に最終的な責任を負います。内部監査部門は組織体の戦略および目標の達成を支援するための監査を行います。取締役会は内部監査部門を監督する役割を担います。内部監査部門長は最高経営責任者、取締役会と密に情報共有を行うことによって各々の役割を確認し、組織体の戦略により即した内部監査の戦略を立てます。
グローバル内部監査基準の改訂箇所、内容を把握し、グローバル内部監査基準に適合した内部監査部門の戦略、監査計画策定が重要なポイントになります。

 

 

まとめ

グローバル内部監査基準改訂のポイントの中でも、内部監査部門の業務に影響が大きいと思われるもの、内部監査部門に求められる役割は以下の通りです。
1、内部監査の戦略
・取締役会および最高経営責任者と意見を交換したうえで、内部監査部門のビジョンと戦略目標の策定に着手する
・既存の内部監査の中期計画等に取締役会、最高経営責任者、ステークホルダーの期待、質の高い内部監査へのニーズが含まれない場合、追加検討が求められる
2、内部監査の手法
・内部監査部門が現在有している、あるいは導入を検討しているテクノロジーを評価する
・テクノロジーの取得および導入により内部監査部門の業務がどう強化されるか検討する
・テクノロジーを導入するための計画を策定し、実施すること
・戦略立案時や、年度監査計画の策定時に、内部監査の手法を検討する
3、発見事項・結論の評価
・発見事項が業務に与える影響を測定する
・発見事項および結論の重大性の評価を実施する
・優先順位付けの手法を確立すること
4、内部監査部門に求められる役割
・グローバル内部監査基準の改訂箇所、内容を把握する
・現在の内部監査部門の戦略、監査計画がグローバル内部監査基準に適合しているかを確認する
・取締役会や最高経営責任者の理解を促す
・取締役会や最高経営責任者が担う責任や役割を明確にする

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