J-SOX対応~海外子会社における内部統制評価の基礎知識

2020年08月20日

日本企業が営む事業のグローバル化により、連結売上高に占める海外拠点の売上高の割合が増え、海外子会社が新たにJ-SOXの評価対象拠点となるケースが多くなっています。海外拠点においては、言語、文化、商慣習の違い等といった様々な要因を考慮して国内とは異なる進め方で内部統制の構築、評価を行う必要があります。
今回は、海外子会社における内部統制構築および内部統制評価の知見を踏まえて、これから海外拠点のJ-SOX評価を行うための基本的な留意点について解説します。

 


海外子会社の内部統制評価における事前準備

海外子会社の評価を開始する前には、以下の2点に留意して準備を進める必要があります。

 

1. 海外子会社特有のスケジュール作成
海外子会社は、時差や言語の違い等の問題があることにより、コミュニケーションをとるのが容易ではないため、国内評価と比較すると以下の作業に時間がかかります。
①現地からの証憑収集
②現地より受領した証憑の内容理解
③現地との質問と回答のやりとり
④現地でのコントロールの新規導入
国内評価と同じスケジュール感で考えていると作業に遅れが生じるため、余裕を持ったスケジュールを作成する必要があります。さらにスケジュールを作成する際には、海外対応として必要となる作業を考慮しておくことがポイントです。例えばコミュニケーション言語が英語である場合、まずは日本語で証憑収集依頼一覧、評価手続き等を作成することが多く、日本語から英語への翻訳作業が必要となります。この翻訳作業は時間がかかるので、スケジュールに事前に盛り込んでおかないと評価作業に遅延が生じるリスクが高まります。

2. 内部統制報告制度の説明
評価対象となった海外子会社に日本の内部統制報告制度(以下J-SOX)を説明し、理解してもらうことが重要です。その手順は、まずマネジメント層にJ-SOXが制定された背景、J-SOXの目的、全社統制・決算統制・業務プロセス統制・IT統制の概要を説明し、そこから従業員へ教育します。それによって内部統制評価を円滑に進めることが可能となります。

 

このように海外子会社の内部統制評価を行う際は、海外子会社特有の事情をおさえて事前準備を行う必要があります。

 

海外子会社の全社統制評価

全社統制とは、企業集団および財務報告全体に重要な影響を及ぼす統制です。例えば行動規範、職務分掌等があります。海外子会社においては、同一の会社内に言語や文化、宗教等が異なる人が働いていることが多く、人の価値観も様々なので、倫理観等の統制環境を評価する全社統制が特に重要となります。

 

1. 行動規範の制定・周知や倫理研修の実施
海外では、従業員手帳と呼ばれるもの(行動規範や会社に勤務する上でのルール等が記載されたもの)を入社時に配布することがあります。海外拠点では、従業員が従業員手帳の記載内容を確認のうえ受領証にサインし、会社へ提出するケースが多く、この点を評価します。また日本のコンプライアンス研修に類似した倫理研修の受講記録を収集し、従業員の受講状況を確認する必要もあります。

2. 2つの内部通報制度の存在や周知状況
海外拠点の内部統制では、2種類の内部通報制度の存在や周知状況を評価することがあります。一つは、従業員による法令や社内規程に違反する行為を会社の取締役会へ通報する海外拠点独自の内部通報制度です。もう一つは取締役等の役員による法令や社内規程に違反する行為を日本の親会社へ通報する内部通報制度です。海外拠点の内部統制評価では、グループで法令を順守することを目的として、日本の親会社が制定した企業グループ全体のコンプライアンスガイドラインを基に内部通報の仕組みを構築し、これらの内部通報制度が従業員へ周知されていることを評価します。

 

全社統制における統制環境は、社風を決定づけ、従業員の内部統制に対する意識に影響を及ぼす構成要素で、海外子会社の内部統制評価においては特に重要となります。

 

海外子会社の決算統制評価

決算統制とは、個別・連結財務諸表や開示資料の作成といった一連の決算・財務報告に係る業務プロセスの統制のことです。例えば、個別・連結財務諸表作成手順、グループ会計方針、経理部員への財務報告作成に係る教育等が該当します。決算統制評価では、連結グループの財務報告に際して、そのプロセスが信頼できるものなのか評価します。

 

1. 会計処理基準の変更に関する親会社への相談
日本の親会社が適切な会計方針を採用するためには、海外子会社が適用する会計処理基準の新設・改廃に関する情報を適時に収集することが必要です。日本の親会社は海外子会社からの情報を収集しやすいようなレポートラインを構築し、海外子会社が採用する会計処理基準の変更を日本の親会社へ事前に報告しているかを内部統制評価でチェックします。

2. 経理担当者として必要なスキルや役割等の定義
海外拠点では、経理業務の従事者に必要な決算・開示に関わる知識、経験、役割等を記載した職務記述書を作成するのが一般的です。そこで、海外子会社の内部統制評価では、職務記述書を収集し、ポジションごとに必要なスキルや役割等が明文化されているかを確認します。

 

海外子会社の決算統制評価においては、連結グループの財務報告に係るプロセスが信頼できるかを評価するため、海外に連結子会社をもつ日本の親会社は、上記の点をおさえて評価を行う必要があります。

 

海外子会社の業務プロセス統制評価

業務プロセス統制とは、主に売上・売掛金・棚卸資産のいわゆる3勘定の計上に至るまでの業務フローにおいて実施されるチェックや承認といった統制のことです。海外子会社の業務プロセス統制評価の際は、海外拠点で発生しがちな事象を踏まえて評価することが多いです。

 

1. 与信限度額の設定や管理に係るルールの確認
海外では、与信限度額の設定や管理が適切に行われていないケースが散見されます。海外子会社が信用取引を行うにあたって、顧客の財務情報等を入手するといった信用調査の実施や与信限度額設定等に関するルールの有無を内部統制評価で確認します。そしてそれらのルール通りに与信管理が行われているかを合わせて評価する必要があります。

2. 棚卸資産の実地棚卸結果に係る記録の確認
棚卸資産(商品・製品・仕掛品・原材料等)は、換金性が高い資産と言えます。海外では適切に棚卸資産の現物管理が行われていないことにより、日本と比較すると横領等の不正が起こりやすい傾向にあります。内部統制評価においては、定期的に実地棚卸が行われ、その結果が適切に会計帳簿へ反映されているかを確認することが重要となります。

 

業務プロセス統制では、いわゆる3勘定の計上に至るまでのプロセスを評価しますが、海外拠点ではそのプロセスの信頼性に影響を及ぼす上記のような事象が発生しやすいため留意する必要があります。

 

海外子会社のIT統制評価

IT統制は、IT全社統制、IT全般統制、IT業務処理統制の3つからなります。海外子会社の内部統制評価においては、IT業務処理統制(業務プロセスに組み込まれた自動統制)は、国内と海外で評価作業に大きな違いはありません。そのため、本ブログではIT全社統制とIT全般統制について解説します。

IT全社統制とは、企業全体のITに係る方針・計画・手続等の策定に関する統制です。一方、IT全般統制とは、業務処理統制を有効に機能させる環境を実現するための統制です。具体的にはシステムの開発・保守に係る管理、システムの運用・管理、内外からのアクセス管理等のシステムの安全性の確保、外部委託に関する契約の管理です。海外子会社のIT全社統制とIT全般統制の評価における評価ポイントは、以下の2つとなります。

 

1. 定期的なITに関するリスク評価の実施
IT全社統制評価において、財務報告の信頼性を確保する上で妨げとなるITのリスクを海外子会社が定期的に評価していることを確認します。例えば独立行政法人情報処理推進機構のWebサイト等を利用して海外子会社がITリスクを定期的に測定しているかを評価します。

2. 海外子会社によるIT全般統制評価の有無
IT全般統制評価において、日本の親会社が使用するアプリケーションシステムを親会社の管理の下、海外子会社でも使用するケースがあります。この場合、システム開発・保守は、日本の親会社で管理しているため、親会社のIT全般統制の評価結果に依拠することになります。ネットワーク管理、インフラの保守等についても、日本の親会社で実施していれば、同様に親会社のIT全般統制評価の結果に依拠することが可能です。一方、海外子会社でネットワーク管理、インフラの保守等実施している場合には、海外子会社のIT全般統制で評価を行う必要があります。

 

IT統制評価においては、日本の親会社と海外子会社のIT管理における役割分担を踏まえ評価を行うことが重要です。

 

海外子会社の内部統制は、日本の内部統制報告制度に基づき評価を行うという点で国内子会社と同様です。しかしながら、海外子会社の内部統制評価は時差や言語の違い等により、コミュニケーションに時間がかかります。このような海外拠点特有の事情を理解した上で、スケジュールを作成し、海外拠点への教育を行い、評価を行う必要があります。今回お話した海外子会社の内部統制の評価ポイントをおさえて評価を実施することをお勧めします。

 

まとめ

■海外子会社の内部統制評価における事前準備
1. 海外子会社特有の事情を考慮したスケジュールの作成
2. 内部統制報告制度の説明
■海外子会社の全社統制評価
1. 行動規範の制定・周知や倫理研修の実施
2. 海外子会社独自および企業グループ全体の内部通報制度の存在や周知状況
■海外子会社の決算統制評価
1. 海外子会社が採用する会計処理基準の変更に関する事前の親会社への相談
2. 職務記述書への経理業務従事者に必要なスキルや役割等の定義
■海外子会社の業務プロセス統制評価
1. 与信限度額の設定や管理に係るルールの整備状況および運用状況の確認
2. 棚卸資産の実地棚卸の結果が会計帳簿へ適切に記録されていることの確認
■海外子会社のIT統制評価
1. 財務報告の信頼性を確保する上での阻害要因となるITに関するリスク評価の実施
2. 日本の親会社のIT全般統制評価結果へ依拠できるかどうかの判断

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