内部統制評価者が知るべき内部統制評価と内部統制監査の結論

2020年09月17日

 

金融商品取引法に基づき、上場企業の経営者(会社)は、財務報告に係る内部統制について評価し、評価結果を「内部統制報告書」にまとめて、「有価証券報告書」とともに内閣総理大臣宛(財務局)に提出する必要があります。一方、監査法人が行う「内部統制監査」は、経営者(会社)が作成した上記の「内部統制報告書」が一般に公正妥当と認められる内部統制の評価の基準に照らして適正であるかを検証するものです。多くの企業では、内部監査部門が内部統制評価を担っており、企業の評価担当者は、内部統制評価と内部統制監査の結論の違いを知っておくべきです。今回は内部統制評価と内部統制監査のそれぞれの結論についてお話しします。

 


内部統制評価とは

上場している会社は毎年、会社の決算をとりまとめ「有価証券報告書」を開示することが定められています。2000年代に「有価証券報告書」の虚偽記載、売上の水増し等不正が多く発生しました。それを受けて2009年3月以降に提出する「有価証券報告書」より「内部統制報告制度」が適用され、上場企業は「有価証券報告書」とともに「内部統制報告書」の提出が義務化されました。「内部統制報告書」は、会社が「有価証券報告書」を作成するにあたってミスや不正が発生しないように、また、発生しても発見され改善されるような体制つまり内部統制が構築しているかを自ら評価し、「内部統制が有効であるか」「内部統制が有効でない」か「内部統制報告書」にまとめ、提出することが義務付けられています。
内部統制評価の根拠法令は「金融商品取引法」となり、条文としては「第24条の4の4第1項」の「内部統制報告書の提出義務」が該当します。そして、この法令には罰則があります。「内部統制報告書」の未提出の場合や、重要事項に関する虚偽記載があった場合などは、「(責任者は)5年以下の懲役または500万円以下の罰金またはその両方(法人の場合は5億円以下の罰金)」と厳しい罰則が定められています。

 

「内部統制報告書」は、上場企業にとって利害関係者(ステークホルダー)に対して、「有価証券報告書」の内容・数字に信頼性があるかどうかを自ら表明するというものです。そして、「内部統制報告書」の提出者は経営者であるということも重要です。終的な内部統制構築の責任は経営者にあることを意味しています。

 

内部統制評価の結論

「内部統制報告書」に記載する結論は、以下の4種類あります。

①財務報告に係る内部統制は有効
内部統制評価した結果に重大な問題は発見されず、内部統制が有効であると判断できたときに表明されるものです。

②評価手続の一部が実施できなかったが、財務報告に係る内部統制は有効
期末日付近での合併等の「やむを得ない事情」で評価ができなかった場合に、その一部分は評価手続が実施できなかったが、それ以外の部分については有効である場合に表明することになります。

③開示すべき重要な不備があり、財務報告に係る内部統制は有効でない
開示すべき重要な不備があるため、財務報告に係る内部統制が有効ではないと判断された場合に表明されます。この場合、開示すべき重要な不備と、それが是正されない理由を合わせて記載されます。この表明は発見された重要な内部統制が期末日までに是正措置が講じられなかったときに表明されるもので、期末日までに是正されていれば開示すべき重要な不備はなかったとして取り扱われます。

④重要な評価手続が実施できなかったため、財務報告に係る内部統制の評価結果を表明できない
重要な評価手続が実施できず、財務報告に係る内部統制について全体的に評価できないときに表明する意見となります。この場合、実施できなかった評価手続とその理由を記載する必要になります。

 

会社としては、当然①が目指すべき結論となります。評価者としては独立した立場で客観的に評価することが求められますので、評価者が有効になるように業務改善に直接関与するという事はできませんが、実務上は「有効」になるようにサポートすることは必要です。

 

内部統制監査とは

内部統制監査とは、監査人(監査法人・公認会計士)が経営者が行った評価および結果を対象に、監査を実施し、監査証明として意見を表明することです。内部統制監査の根拠法令は「金融商品取引法」で、条文としては「第193条の2第2項に定める提出する内部統制報告書に対する公認会計士又は監査法人による監査証明の義務」に定められています。内部統制監査を実施するのは、財務諸表の監査を実施する監査人で、財務諸表の監査と内部統制の監査を一体として実施します。一方、アメリカの内部統制報告制度(SOX法)では、外部監査人が内部統制の有効性を直接評価するダイレクトレポーティングを採用していますが、日本は、経営者による内部統制の評価結果を監査することに留まっています。これは、監査人の負担、企業の負担を軽減するために採用された日本独自の仕組みと言えます。

 

ちなみに、企業の担当者の方とお話すると、「内部監査」と言葉が似ているため、内部統制監査と内部監査を勘違いされている方がいらっしゃいます。「内部統制監査」は上記の通り、会社が実施した「内部統制評価」を監査法人が適切に評価しているかを監査するもので、内部統制評価上の言葉です。一方、「内部監査」は社内の独立した部署が会社全体の監査をすることであり、「内部統制監査」とは異なります。

 

 

内部統制監査の流れ

内部統制監査では、経営者自らが評価して作成した「内部統制報告書」の内容について、財務諸表を監査する監査人が信用できるかどうかの意見を述べるために、以下の流れで手続を実施します。

「内部統制監査」は、まず、会社が設定した内部統制の評価範囲が適正であるかを検討します。また、経営者が評価の一部を評価範囲から除外した場合も、除外した理由が合理的であるか財務諸表監査への影響を含めて検討します。
次に、経営者による全社的な内部統制の評価、各業務プロセスに関する内部統制、財務報告に関わる重要なシステムや決算に関わるプロセスについて評価の妥当性を検討します。妥当性の検討のためには、経営者が評価した統制上の要点について、「質問」「観察」「記録確認」「文書確認」などを通じて、監査証拠を入手し、監査意見を形成します。

最後に、内部統制監査の結果、開示すべき重要な不備を発見した場合は、経営者に報告し是正を求めると共に、是正状況を適時に評価します。また、監査法人は、開示すべき重要な不備の内容とその是正結果を取締役会、監査役または監査委員会に報告する必要があります。

 

内部統制監査の結論の種類

監査意見には、以下の5種類があり、監査人はこのいずれかの意見を表明することになります。

①無限定適正意見
ア.経営者は内部統制報告書において財務報告に係る内部統制は有効であると結論付けており、かつ、内部統制の評価範囲、評価手続及び評価結果についての、経営者が行った記載が適切である場合
イ.経営者は内部統制報告書において財務報告に係る内部統制に開示すべき重要な不備があるため有効でない旨及び是正できない理由を記載しており、かつ、内部統制の評価範囲、評価手続及び評価結果についての、経営者が行った記載が適切である場合
ウ.経営者は、やむを得ない事情により内部統制の一部について十分な評価手続を実施できなかったが、内部統制報告書において財務報告に係る内部統制は有効であると結論付けており、かつ、内部統制の評価範囲、評価手続および評価結果についての、経営者が行った記載が適切である場合

②意見に関する除外事項を付した限定付適正意見
内部統制の評価範囲、評価手続及び評価結果についての、経営者が行った記載に関して不適切なものがあり、無限定適正意見を表明することができない場合において、その影響が内部統制報告書を全体として虚偽の表示に当たるとするほどには重要でないと判断した場合

③不適正意見
ア.監査人が特定した開示すべき重要な不備を経営者は特定しておらず、内部統制報告書に記載していない場合
イ.内部統制報告書の記載内容が事実と異なり、著しく不適切な記述がある場合

④意見不表明
重要な監査手続が実施できず、結果として十分な監査証拠が入手できない場合で、その影響が内部統制評価に対する意見表明ができないほどに重要と判断した場合

⑤監査範囲の制約に関する除外事項を付した限定付適正意見
経営者が実施した内部統制の評価範囲が一部不十分であるが、経営者の評価結果そのものは適切である場合

 

「有効」以外の「内部統制評価」の結果を出す会社は、年間数%ではありますが、毎年、数十社ほど発生するのが現実です。企業の評価担当者は、5種類の内部統制監査の結論を正しく理解して、実務に臨む必要があります。

 

 

まとめ

1. 内部統制評価とは
「有価証券報告書を適正に作成するための体制が構築され運用されているか」自社で検証(評価)すること。

2. 内部統制評価の結論
① 財務報告に係る内部統制は「有効である」
② 評価手続の一部が実施できなかったが、財務報告に係る内部統制は「有効である」
③ 開示すべき重要な不備があり、財務報告に係る内部統制は「有効でない」
④ 重要な評価手続が実施できなかったため、財務報告に係る内部統制の評価結果を「表明できない」

3. 内部統制監査とは
直接的に企業の内部統制の整備及び運用状況を検証するのではなく、あくまで経営者(会社)の主張(内部統制が有効か否かの評価)を前提とし監査を経て監査意見を表明する。

4. 内部統制監査の流れ
経営者(会社)が決定した内部統制の評価範囲の妥当性を検証し、内部統制の整備状況及び運用状況の有効性に関する経営者(会社)の評価結果の妥当性を評価で使用した資料を確認し検証する。

5. 内部統制監査の結論の種類
①すべての重要な点において適正である「無限定適正意見」
②一部に不適切な事項はあるが、全体としては正しいとする「限定付適正意見」
③不適切な事項があり、それが全体に重要な影響を与えるとする「不適正意見」
④記録が不十分であったり、証拠が入手困難であるため意見表明ができないとする「意見不表明」
⑤評価範囲に一部不十分であるが、評価結果は適正である「監査範囲の制約に関する除外事項を付した限定付適正意見」

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