最低限おさえておきたい~連結納税制度と会計処理の概要~

2020年10月01日

 

連結納税制度は、日本の親会社と日本国内の100%子会社を1つの納税主体とみなして法人税を計算する制度です。連結納税関連業務は、子会社から税務申告に必要な情報を収集し、企業グループの税務上の利益である連結所得金額や連結法人税額を計算しなければならず、特に親会社の経理・税務担当者にとっては、非常に作業負担が大きい業務です。また、税法の知識だけでなく税効果会計の知識も必要になる難解な業務でもあります。その反面、適用することで法人税の軽減などのメリットがある連結納税業務を担当できるようになれば、経理担当者としての人材価値をより一層高めることができます。
今回は、細かい論点や2022年4月1日以後に開始する事業年度より適用されるグループ通算制度の説明は割愛し、現行の連結納税制度とその会計処理などの基本的な内容をわかりやすくお伝えいたします。

 


連結納税制度とは

まずは、連結納税がどのような制度かお話します。連結納税制度は、企業グループを1つの納税単位として、その企業グループの課税所得と法人税額を計算し、親会社が法人税をまとめて納付する制度で、申告書の提出はグループ各社が行います。連結納税の対象となる企業グループは、日本の親会社とその親会社に100%の株式を保有されている日本の全ての子会社となり、外国子会社は対象とはなりません。また、連結納税制度はあくまで法人税(国税と地方税の両方)に適用される制度で、住民税や事業税には適用されませんので、その点にも留意する必要があります。

以下で連結納税制度を採用した企業グループが毎年納付しなければならない連結法人税額の計算手順について説明します。
①各法人での個別所得額の計算
単体納税の場合とほぼ同じように、親会社と子会社の各法人において、会計上の当期純利益に減価償却費の償却限度超過額や貸倒引当金の繰入限度超過額といった項目(税務上の費用と認められる額を超える金額)の調整を行うことで、個別所得額を計算します。
②各法人での連結法人間取引で生じた損益の調整
資産の売却損益など企業グループ間で行われた取引によって発生した損益の調整を行います。
③連結所得金額の計算
受取配当金の益金不算入(税務上の収益とみなされない金額)、交際費や寄附金の損金不算入(税務上の費用と認められない金額)といったグループ全体で調整が必要となる項目について調整計算し、企業グループの税務上の利益である連結所得金額を算出します。
④連結所得に税率を乗じた連結法人税額の算出
連結所得金額に連結法人税率を掛けた金額から、所得税額控除、外国税額控除といったグループ全体で調整が必要となる項目を控除して、企業グループが納税しなければならない連結法人税額を算定します。この連結法人税額を求めた後、各会社の個別帰属額を計算し、それぞれの会社に債権債務を帰属させます。連結納税では、親会社が企業グループ全体の法人税を一旦納付しますが、最終的には親子会社間で各子会社が負担すべき納税額を精算するため、個別帰属額の計算が必要になります。

 

連結納税制度は、日本の親会社とその日本国内100%子会社を1つの組織として、上記①から➃の手順で毎年納付しなければならない連結法人税額を計算し、親会社がまとめて納付する制度です。

 

連結納税制度における会計処理

次に連結納税制度における会計処理を個別財務諸表と連結財務諸表を作成する際とそれぞれに分けてお伝えします。

①個別財務諸表作成における会計処理
まず、連結納税制度を採用する企業グループの親会社では、連結法人税額のうち親会社に帰属する金額を損益計算書で「法人税、住民税及び事業税」として計上するとともに、連結法人税として納付すべき金額を貸借対照表で「未払法人税等」として計上します。また、連結納税子会社に関する連結法人税の個別帰属額及び地方法人税の個別帰属額について、各連結納税子会社に対する「未収入金」及び「未払金」として親会社の貸借対照表で計上します。
それに対して、連結納税子会社では、連結法人税の個別帰属額及び地方法人税の個別帰属額を損益計算書で「法人税、住民税及び事業税」として計上するとともに、同額を連結納税親会社に対する「未収入金」もしくは「未払金」を貸借対照表で計上します。連結法人税の個別帰属額がプラスの子会社は親会社へ支払いますので、親会社は「未収入金」を計上し、連結法人税の個別帰属額がマイナスの子会社は親会社から還付を受けますので、親会社は「未払金」を計上することとなります。

②連結財務諸表作成における会計処理
連結納税制度を採用する企業グループの連結財務諸表においては、法人税及び地方法人税に関する「繰延税金資産」について、企業グループを一体として回収可能性を判断し、企業グループの法人税及び地方法人税に関する「繰延税金負債」と相殺して表示します。
なお、親会社と子会社の個別財務諸表で計上された個別帰属額に関する親子会社間の「未収入金」や「未払金」は、連結グループ会社間の債権債務として相殺消去されるため、連結財務諸表では計上されません。

 

親会社と子会社の個別財務諸表作成時、「未払法人税等」の相手勘定として、「法人税、住民税及び事業税」だけでなく、「未収入金」や「未払金」が登場する点が特徴的ですが、連結財務諸表作成時には、それらの「未収入金」や「未払金」は相殺消去されます。

 

連結納税採用によるメリット・デメリット

続いて連結納税採用によるメリットとデメリットをご紹介します。

■連結納税採用によるメリット
①連結グループ会社の損益通算が可能となる点
親会社と子会社の所得を通算できますので、企業グループ内に赤字の法人が存在した場合、グループ全体で法人税の負担を軽減することが可能となります。親会社が連結納税開始前から保有している繰越欠損金を利用して節税できますので、このメリットを重視して、連結納税を採用する企業グループも多いようです。
②繰延税金資産の回収可能性が向上するケースがある点
繰延税金資産の回収可能性に関する検討を連結ベースで行うため、各社の個別所得見積額が無かったとしても、企業グループ全体で連結所得見積り額があれば、回収可能性があるということになり、計上する繰延税金資産の回収可能性が高まります。

■連結納税採用によるデメリット
①連結納税制度は原則継続適用である点
連結納税制度は継続適用が原則のため、一旦適用すると、やむを得ない事情があると認められる場合などを除いて、取りやめることができません。
②事務負担が増大する点
単体申告の場合、企業グループの各会社ごとに課税所得と納税額を計算し、各社が申告書の提出と納税を行います。それに対して、連結納税の場合は、企業グループ全体の課税所得と納税額を計算し、企業グループ各社で申告書を作成・提出し、親会社が法人税を納付します。そのため、企業グループ各社の決算業務・納税業務の事務負担が増大してしまいます。

 

連結納税を採用するかどうかは、以上のメリットとデメリットを考慮したうえで決定する必要があります。

 

連結納税採用にあたっての留意点

先程お話した連結納税を採用することによるデメリットの中で特に大きいと考えられるのは、企業グループ各社の経理担当者や税務担当者の作業負担が増えてしまうことです。毎年行う通常の税務申告の際だけでなく、翌年以降何らかの理由で申告のやり直しが必要になった場合は、さらに作業負担が大きくなります。現行の連結納税制度では、親会社が子会社から申告のための情報を集約することによって、企業グループ全体の申告・納税を行うため、例えば企業グループ内の子会社1社で税務調査等により修正申告などが発生した場合、個別帰属額の再計算を行ったり、企業グループ全体で修正申告を行ったりする必要があるからです。
このように作業量が膨大で複雑な事務処理が必要な連結納税制度を採用し、Excelを使って申告・納税を行おうとした場合、より一層作業負荷が高くなりますので、その点に留意する必要があります。税制改正の都度、Excelファイルをメンテナンスしていく必要がありますし、そういった準備作業を含めて税金計算から申告を行うまでに非常に時間がかかるうえ、計算結果の正確性に自信が持てないといった弊害もあります。
そういった弊害を取り除くうえでは、連結納税システムの活用が効果的かつ効率的と考えます。それによって、税務申告書への転記ミスの可能性も大幅に減らせますし、国税だけでなく地方税の申告書まで自動で作成できるといったメリットもあるからです。

 

連結納税業務は、実務経験者が少なく人材の確保が難しいため、外部委託する会社も少なくないかと思いますが、外部委託したとしても、社内に連結納税を理解している人材を育成するなどして確保する必要があります。
ただ、いきなり細かい論点を理解しようとしても、なかなか理解が進まず、苦手意識を持ってしまう可能性がありますので、まずは連結法人税額の計算手順や会計処理といった概要をしっかり把握することをお勧めします。
今回のブログを連結納税に関する概要の理解に役立てていただきたいと思います。

 

まとめ

■連結納税制度とは
・連結納税制度は、企業グループを1つの納税単位として、その企業グループの課税所得と法人税額を計算し、親会社が法人税をまとめて納付する制度で、申告書の提出はグループ各社が行う。
・連結法人税額の計算は、①各法人での個別所得額の計算②各法人での連結法人間取引で生じた損益の調整③連結所得金額の計算➃連結所得に税率を乗じた連結法人税額の算出の手順で行う。
■連結納税制度における会計処理
親会社と子会社の個別財務諸表作成時、「未払法人税等」の相手勘定として、「法人税、住民税及び事業税」だけでなく、「未収入金」や「未払金」が登場する点が特徴的だが、連結財務諸表作成時には、それらの「未収入金」や「未払金」は相殺消去される。
■連結納税採用によるメリット・デメリット
・連結納税を採用するメリットには、①連結グループ会社の損益通算が可能となる点と②繰延税金資産の回収可能性が向上するケースがある点がある。
・連結納税を採用するデメリットには、①連結納税制度は原則継続適用である点と②事務負担が増大する点がある。
■連結納税採用にあたっての留意点
・連結納税を採用することによるデメリットの中で特に大きいと考えられるのは、企業グループ各社の経理担当者や税務担当者の作業負担が増えてしまうことである。
・連結納税制度採用にあたっては、作業量が膨大で複雑な事務処理が必要となるため、Excelを使って申告・納付を行うのは非効率であり、連結納税システムの活用が効果的かつ効率的である。

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