工事・建設業向けERPパッケージの特徴

2017年09月28日

 

今回は工事・建設業向けの基幹システムについて考えてみたいと思います。
工事・建設業の企業では、基幹システムに自社開発のシステムを使用している割合が高いと感じています。
その背景には、工事・建設業界は企業毎の違いが大きいことが挙げられますが、ERPパッケージの種類が増えてきたこともあってか、パッケージシステムを検討する企業も増加傾向にあります。
今後、ERPパッケージをご検討される工事・建設業の企業様に向けて、工事・建設業向けのERPパッケージの特徴や留意点を整理していきたいと思います。

 


工事・建設業向けの基幹システム

まず、工事・建設業における基幹システムについて、簡単に確認しておきたいと思います。
工事・建設業では、受注から工事外注、実行予算・工事原価管理、会計(債権・債務・一般会計)、人事管理・給与計算などがどの企業にも共通する基幹業務と言え、基幹システムの範囲も基本的にはこれらの業務領域となります。

さらに、工事・建設業では、
・見積積算を実行予算に連携したい
・工事の実績から官公庁への提出書類作成などを自動作成したい
といった要望が出ることが多くあります。
上記の要望はあくまでも例ですが、工事情報に紐づけて管理したい情報が多数存在するというのが、工事・建設業の一つの特徴と言えます。

自社開発の基幹システムでは、大なり小なり、工事情報に紐づけて管理する情報を取り扱うための機能が取り入れられていることが多いように感じます。

 

 

 

ERPパッケージの標準的なカバー範囲
(人事給与・会計など他業界との差が少ない業務を除く)

次に、工事・建設業向けのERPパッケージの標準機能でカバーされている範囲について確認したいと思います。
パッケージシステムによっても差がありますので、あくまでも標準的な範囲について記載します。

 

・受注業務(引合、見積から受注まで)
多くのERPパッケージにおいて、引合・見積情報から受注情報の登録までカバーしています。
工事件名、金額、工期のほか、施行地、現場代理人など工事特有の情報も登録できるようになっています。
一方、見積積算機能は、ERPパッケージではカバーしていないことがほとんどです。

 

・実行予算管理
実行予算の登録及び変更に対応しているパッケージシステムがほとんどです。
ただし、実行予算は企業毎にも管理する項目が異なっており、ERPパッケージの標準機能では、十分な対応ができないことも多いです。(詳細は後述します。)

 

・工事原価管理
発生した直接工事費や直接経費を集計して、工事毎の原価を算出する機能が搭載されています。
しかしながら、人件費や間接費、社内損料などについては、企業が独自の計上ルールを持つことも多く、ERPパッケージの標準機能だけでは対応しきれないことも多くあります。

 

・工事外注管理
外注情報から出来高情報の登録までカバーしているものがほとんどです。
また、登録した発注情報を基に、注文書を出力するといった機能も搭載されています。

 

・完成工事・工事決算管理
工事完成基準、工事進行基準などの売上計上基準に対応しています。
自社開発のシステムでは、工事決算時のチェックリスト機能(書類に漏れが無いか、工事未払金の計上漏れが無いかなど)があるものも目にすることがありますが、ERPパッケージにはこのような機能は付いていないことが多いです。

 

・債権管理
基本的な請求・入金機能は搭載されています。
ただし、決済方法(半金半手:半分は振込、半分は手形)や保留金、協力会費など業界固有のルールも多く、標準機能だけでは全てのパターンに対応できないことも多いです。

 

・JV管理
JV構成会社の登録、出資金請求、分配などといった機能は、搭載されている製品が多くあります。
ただし、JVの受発注や社内JV取引など、様々な取引を全て標準機能でカバーするのは難しいことが多いです。

 

上述の通り、ERPパッケージの標準機能では基本的な業務には対応しているものの、細部はカバーしていないことがほとんどです。
多くの機能において、カスタマイズや追加開発をして対応することが前提になっていると考えたほうが良いです。

 

 

ERPパッケージ採用に向けて対応を検討すべき機能の例

自社開発システムからERPパッケージへの乗り換えを検討する際、ERPパッケージの標準機能だけでは、必ずギャップが生じます。そのギャップを全てカバーしようとすると追加開発が膨らみ、ERPパッケージを採用するメリットが薄れてしまいます。
ERPパッケージを検討するにあたっては、追加開発してでも機能ギャップを埋めるべきか否かの判断が必要となります。
以下に、例を挙げて詳述します。

 

1.実行予算
実行予算は企業毎に管理単位が異なります。
予実管理を行う項目も企業によって異なりますし、月次管理を行うか否かという視点もあります。
自社開発のシステムでも、実行予算の作成や予実管理はカバーしきれていないことが多く、システム刷新する際には、改善できないかという議論が出ることが多い領域です。

 

実行予算のシステム化を目指す場合は、
・実行予算作成までシステムで行うか
Excelの操作性が下がっても現場側が許容できるか。
・実行予算の項目を実務上必要な粒度にできるか
通常は科目より細かい粒度となるが、システムで持つことが可能か。
・発生費用を実行予算の粒度で登録できるか
今までよりも細かな実績入力が必要になるが対応可能か。
といった点を検討する必要があります。

 

現場側の業務にも関わる論点であり、予め運用可能な姿を描いておく必要があります。

 

2.基幹システムで保持する情報の活用範囲
工事・建設業では、基幹システムで保持する情報を利活用することが頻繁にあります。
例えば、工事経歴の管理がその一つです。
現場代理人や主任技術者などの経歴書を取引先や役所へ提出することがありますが、基幹システムには従業員の情報も工事実績情報も入っているので、自動的に作成できないのか、という要望が現場から出ることがあります。
情報を保持していたとしても、工事経歴書はデータを自動で引っ張るだけでは作成できないことが多く、集めた情報の取捨選択が必要となります。
その取捨選択の判断は、企業毎にも異なり、自動化するのも容易ではありません。

 

それ以外にも、労災保険や出面帳、配員管理など、様々な情報が工事情報に紐づけて管理されます。
これらの業務も、ERPパッケージの標準機能だけでは対応できず、追加開発が必要となるポイントです。
システムで対応すべき処理は何か、システム化によりどの程度の効果が得られるのかを、予め分析したうえで判断していく必要があります。

 

上記はあくまでも一例で、それ以外にも、システム化を判断すべき点は出てきます。
自社開発システムに実装されていた機能は、次システムでも実装したい、という意見は多いかと思いますが、まずはERPパッケージの標準機能を理解し、そのうえで、現行システムの機能にとらわれずに、追加開発すべき機能を判断していくべきだと思います。

 

 

ERPパッケージ検討時の注意点

最後に、ERPパッケージを検討する際の留意点について述べたいと思います。

 

①カスタマイズ・アドオンの範囲を見極める
繰返しになりますが、工事・建設業向けERPパッケージは、企業毎に異なる細かな要望については、カスタマイズ・アドオンでの対応を前提にしています。

 

ですが、やみくもに追加開発をするのは効率が良いとは言えませんので、各機能の重要性(カスタマイズ・アドオンしても必要な機能はどれか、標準機能に合わせるべきものは何かなど)を事前に整理しておく必要があります。
・カスタマイズやアドオンは開発費用だけではなく保守費用にも影響する
・カスタマイズ・アドオンが多いと、ハードウェアやERPパッケージの保守切れ時の乗せ換え費用も膨らむ
といった稼働後のコストも考慮して判断すべきです。

 

②現場側も含めた操作性・利用可否を考慮する
工事・建設業向けERPパッケージの特徴として、利用者(ユーザー)が多いことがあります。
営業部門や経理部門の事務担当者に加え、工事現場の現場代理人や外注先の作業員までがユーザーの候補となります。
ERPパッケージによっては、現場の入力支援機能(タブレットで入力可能など)をアピールする製品もあります。
うまく活用できれば効果を得られますが、実際に運用が可能か冷静に判断する必要があります。
各工事現場に必ずしもPCやタブレットがあるとは限りませんし、端末があっても操作が難しい、人数に対して端末数が限られる、といった状況では宝の持ち腐れとなります。
現場の特徴も考慮して、効果が得られるかどうかを判断していく必要があります。

 

ERPパッケージをご検討される際には、機能面以外にも、上記のような点にもご留意いただくとよいのではないかと思います。

 

 

 

まとめ

・工事・建設業向けの基幹システムの範囲
☑受注管理
☑工事外注管理
☑実行予算・工事原価管理
☑会計(債権・債務・一般会計)
☑人事管理・給与計算
・ERPパッケージの標準機能(人事給与・会計など他業界との差が少ない業務を除く)
☑受注業務
☑実行予算管理
☑工事原価管理
☑工事外注管理
☑完成工事・工事決算管理
☑債権管理
☑JV管理
・ERPパッケージ採用に向けて対応を検討すべき機能の例
☑実行予算
✔実行予算作成までシステムで行うか
✔実行予算の項目を実務上必要な粒度にできるか
✔発生費用を実行予算の粒度で登録できるか
☑基幹システムで保持する情報の活用範囲
・ERPパッケージ検討時の注意点
☑カスタマイズ・アドオンの範囲を見極める
☑現場側も含めた操作性・利用可否を考慮する

 

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