中国拠点における監査項目の選定および監査粒度(初回と2回目以降の違い)

2021年04月08日

 

上場企業における内部監査部門の悩みとして、海外拠点に関する業務監査の進め方を挙げられることが増えています。また、海外拠点の監査粒度や監査項目の設定方法に関する悩みを聞くことが多くあります。近年、物価が安い、資源が豊富などといった理由から、東南アジアへ進出する日本企業が増えていますが、拠点として一番多い国は、中国になります。中国はかつて世界工場とされていましたが、販路拡大先の消費市場としても捉えられており、進出先として常に堅実なニーズを示してきています。そこで、本記事では、中国拠点における業務監査の進め方について解説したいと思います。

 


これから始める中国拠点における監査の進め方

多くの日本企業が中国を重要な市場と位置づけて、進出・拡大する戦略をとっています。重要な戦略を成功させるためには、中国拠点のリスクマネジメントとして、内部統制、内部監査の実施が益々重要になってきています。
中国で事業展開する日本企業のリスクを把握や評価するには、考慮しなければならない中国特有の事情や背景があります。言語の問題も1つの大きな要因となりますが、『現地の慣習』も日本と大きく異なりますので、注意が必要です。また、訪問の頻度や日数に制約がありますので、有効な内部監査を実施できていない企業も多いようです。
新型コロナウィルスの影響によりテレワークが普及し、業務フローやリスク、コントロールの変更が発生しています。海外拠点への往査が制限されているこの時期だからこそ、海外監査の重要性は高くなります。海外監査は、日本国内の進め方と大きな差はありませんが、一般的な流れは以下となります。

 

■海外監査業務の流れ
1. リスクの洗い出し(海外拠点の商習慣や法制度、文化等)
2. 監査計画の策定(中長期・年次監査計画)
3. 監査項目の策定(初回監査と2回目以降)
4. 監査リソースの確保(人員計画・専門知識)
5. 監査実施(予備調査・実地監査・フォローアップ監査)

 

これから中国拠点の内部監査を実施する前に、まずは監査業務全体の流れを理解し、把握することが重要です。

 

中期監査計画および年間監査計画の記載項目

内部監査を進めるうえで、まずはリスクを洗い出し、監査計画を策定する必要があります。監査計画では、3~5年の中期監査計画が必要になります。中期監査計画は、IIA国際基準などで作成を求められている訳ではありませんが、内部監査のロードマップとして、将来的に予想されるリスク・環境変化を考慮して検討する必要があります。また、IIA国際基準では、5年に一度外部評価を受けることが望ましいとされています。
年間監査計画は、少なくとも年に一度リスク評価に基づいて、最高経営者および取締役会からの意見を考慮し、策定しなければなりません。年間監査計画に盛り込むべき事項および留意事項は以下の通りになります。

 

■中期監査計画
【盛り込むべき項目】
1. 監査方針および目的
2. 監査対象範囲または拠点(環境による変化)
3. 重点監査項目
4. 監査スケジュール(3年・5年のロードマップ)
5. 監査資源(監査人の要員計画、外部リソース)

 

【留意事項】
1. 海外拠点における組織の中期計画と整合すべきである
2. 組織や外部環境による変化への対応のため、定期的に見直し

 

■年間監査計画(中期監査計画に基づく)
【盛り込むべき項目】
1. 監査方針および目的
2. 監査対象(対象となる部門や業務を明示)
3. 監査時期(監査時期・往査期間)
4. 要員計画(当該事業年における内部監査部門の人員数)

 

【留意事項】
1. リスク評価を行う際に、経営計画や事業計画におけるリスクについて経営陣へ意見を聴取する
2. 期中における経営環境やリスクの変化を常に把握しておき、定期的に見直し・調整する
3. 監査目標を達成させるために、部内及び外部リソースも考慮する

 

中期監査計画と年間監査計画の策定にあたり、記載すべき監査項目と留意事項をまとめましたが、
上述以外に重要な監査事項と、最新の実施基準や経営状況も留意する必要があります。

 

監査項目の選定および優先順位の決め方

海外拠点において様々なリスクが想定されますが、どのように監査を行うべきでしょうか。日本拠点の監査と同様に、整備状況・運用状況の観点からチェックすることになりますが、海外拠点では、不正対応、ルールの整備・周知、親会社への報告、内部通報制度など、海外特有の事情やリスクを加味した監査が必要になります。
中国拠点における監査項目は、拠点の成熟度や規模、経営環境による常に変化するリスク、経営環境によって大きく影響されます。一般的には初めて監査を行う場合と監査が実施されたことがある拠点の監査項目が異なります。

 

■中国拠点の監査項目の選定における考慮すべき事項
1. 経営層による関心事項や懸念事項
→中国拠点の組織体制の人員配置や管理状況など
2. 中国のビジネスリスク
→技術・ノウハウの流出、知的財産権の保護、与信管理など
3. 中国法令遵守状況
→中国労働法の遵守、環境保護法の遵守、国家法規と地方法規の並存など
4. 不正対応またはインシデント事項
→リベートやキックバック、固定資産の盗難、機密情報の漏洩など
5. 規程・マニュアルなどの整備状況
→コンプライアンスを軽視しがちな社会風潮のため、内部統制の整備は日本以上に重要です
6. 規程・マニュアルなどの遵守状況
→就業規則の遵守状況、コンプライアンスマニュアルの遵守状況など

 

中国拠点の監査を効率的に行うためには、まず識別すべきリスクを洗い出し、重要度に応じた監査項目を選定することが重要です。また、中国拠点における経営計画を踏まえた監査を行うことが重要であるため、経営者への意見聴取も必要になります。

 

初回監査の項目選定事例

初めて中国拠点の監査を進めるうえで、どのような点に留意し、監査項目を策定するかについて触れていきます。設立して間もない拠点や監査を行ったことがない拠点については、一般的にルールの整備状況や全社的な管理状況の確認が中心となります。また、初回の監査では、ヒアリングよりも現物(規程類、小口現金、小切手、領収証、固定資産、棚卸資産)に重点を置くのが適切であり、不正またはインシデントにおける対応も必要になります。

 

■実施すべき監査項目(初回)
・規程管理:中国でのビジネスが最優先とされ、業務のルール整備が進んでおらず、内部統制が成熟していないことが多い。
・労務管理:中国は労働環境の変化や労働法の改定が激しいため、最新の動向を留意しながら監査を行う。
・棚卸資産管理:棚卸差異や不良在庫の発生状況を把握し、在庫の架空計上や資産の不正流用などに注目する。
・情報セキュリティ管理:中国では、情報流出事故が多発しており、個人情報や機密情報管理の監査が重要である。

 

■監査手続事例(初回)
・コミュニケーション:親会社との連携体制の整備状況を確認する。
・不正・インシデントの対応:不正や重大インシデントが発生した場合の対応状況や体制を確認する。
・ルールの整備:中国拠点の規程や業務マニュアル等の整備状況を確認する。
・コンプライアンス:労務管理、棚卸資産管理、情報セキュリティ管理状況を確認する。
・チェック体制:発票(請求書)等のクロスチェックや申請承認記録等を確認する。

 

中国拠点の監査においては、移動等を含めて5日間程度しかかけられないことが多いため、特有のリスクを理解し、重要性が高いところに絞って行い、手を広げ過ぎないようにすることが重要です。

 

 

2回目以降監査の項目選定事例

2回目以降の監査については、前回の監査結果を踏まえて、より具体的な監査項目を策定し、監査を実施する必要があります。また、業務改善も内部監査部門に期待される役割の1つであるため、内部監査の場において現状の確認(アシュアランス)だけではなく、改善提案(コンサルティング)をより重点的に実施する必要があります。

 

■実施すべき監査項目(2回目以降)
・規程管理:社内規程や業務マニュアルの通りに、継続的な運用が行われていることを確かめる。
・組織管理:マネジメントが現地に任せきりになっていないこと、各部門の人員配置と役割分担が明確かを確認する。
・販売管理:与信のチェック体制から売上計上、増値税発票の発行までの一連業務状況を確認することが重要である。
・購買管理:取引先との接触が多く、不正行為が発生しやすい業務でもあるため、内部管理状況を確認する。
・契約管理:大口の販売契約、会社賃貸契約、委託先契約などの重要な契約書の内容・期限等を精査する。

 

■監査手続事例(2回目以降)
・改善状況の確認:前回監査時の指摘事項の改善状況を確認・モニタリングを行う。
・ルールの順守状況:販売管理、購買管理、委託先管理、情報セキュリティ等の運用状況を確認する。
・ルールの見直し・更新:法制度や経営環境の変化に合わせて、定期的なルールの見直しを確認する。
・定期的なモニタリング:事業状況やトラブル等の報告体制や対応状況、再発防止策を確認する。

 

2回目以降の監査においては、テーマ別監査などより専門的な監査やヒアリングが重点になるため、専門知識や現地言語に熟達した内部監査人の配置が必要になります。また、中国拠点の内部監査を効果的・効率的に行うためには、会計士などの外部専門家を活用することも重要です。

 

中国拠点における業務監査について、拠点の規模によって監査のレベルが異なるため、優先順位を決め、監査を行うことが望ましいと思います。また、中国特有のリスクを勘案したうえで、初回からテーマ別監査といった専門性が高い領域の監査ではなく、数年かけて段階的に監査を進めることが重要です。今回の記事を通じて、中国拠点における内部監査を効果的・効率的に行ううえで、役に立てていただきたいと思います。

 

 

まとめ

これから始める中国拠点における監査の進め方
・海外監査業務の流れ:海外拠点リスクの洗い出し→監査計画の策定(中長期・年次監査計画)→ 監査項目の策定(初回監査と2回目以降)→監査リソースの確保(人員計画・専門知識)→監査実施(予備調査・実地監査・フォローアップ監査)

 

監査中期監査計画および年間監査計画の記載項目
・中期監査計画:内部監査のロードマップを作成し、将来的に予想されるリスク・環境変化も考慮して検討すべきである。
・年間監査計画:年に一度リスク評価に基づいて、最高経営者および取締役会からの意見を考慮し、策定する必要がある。

 

監査項目の選定および優先順位の決め方
・監査項目は、中国拠点の成熟度や規模、経営環境による常に変化するリスク、経営環境によって大きく影響される。
・識別すべきリスクを洗い出し、重要度に応じた監査項目の選定、経営視点と整合した監査を行うことが重要となる。

 

初回監査の項目選定事例
・社内規程や業務マニュアルの整備状況や全社的な管理状況の確認が中心となる。
・中国特有のリスクを理解し、重要性が高いところに絞って行い、手を広げ過ぎないように監査することが重要である。

 

2回目以降監査の項目選定事例
・前回の監査結果を踏まえて、テーマ別監査等の具体的な監査項目を策定し、監査を実施する必要がある。
・現状の確認(アシュアランス)だけではなく、改善提案(コンサルティング)をより重点的に実施する必要がある。

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