内部統制評価効率化の勘所~事例から学ぶ内部統制評価の効率化手法~

2021年06月24日

 

内部統制報告制度が施行されて10年以上経過し、多くの企業では、安定的に内部統制の運用が進んでいます。しかし、「内部統制評価に作業負荷がかかっている」「効率化を進めているものの、工数が削減できていない」「どのように効率化を進めるかが分からない」といった声を聞くことが多くあります。各企業で内部統制評価効率化を進めてはいるものの、思うように効果が出ていないようです。内部監査部門においては、J-SOX対応だけでなく、不正や情報セキュリティ等の内部監査業務も増えてきている中、内部統制評価を効率化する必要性が高まっているのではないでしょうか。
そこで、今回の記事では、内部統制評価効率化の進め方を説明するとともに、いくつかの効率化事例を紹介したいと思います。

 


内部統制評価効率化の進め方・考え方

内部統制評価の効率化を検討されている背景として、①不正監査や海外監査等、J-SOX対応以外の業務が増加している②新規拠点やシステムリプレイス等、J-SOX評価範囲が増えた③内部監査部門の人員は元々少なく、内部統制評価に係るリソースが不足している④証憑のサンプリング等、J-SOX対応に係る現場部門の負担が求められている、等があります。限られたリソースの中で、内部監査部門の業務・役割が増えており、内部統制評価効率化の必要性が高まっています。一方で、なかなか内部統制評価効率化の効果が出ていないようです。内部統制評価効率化における課題と対応の方向性を挙げていきます。

 

①全体的に評価のやり方を見直したいが、評価効率化のノウハウ不足から小手先の対応になってしまう
⇒内部統制評価効率化に対する考え方を再考する必要がある。
②コントロールの削減等、効率化の取り組みを行ってみたが、思うように工数が削減されていないと感じる
⇒コントロール以外にも効率化を行う余地がないかを検討する必要がある。
③監査法人が保守的な考えであるため、効率化の合意が得られず、評価作業の効率化が進んでいない
⇒監査法人向けに効率化の根拠・理由を明確にし、交渉するべきである。

 

内部統制評価効率化の進め方として、ある部分だけ効率化するのではなく、全体から部分の効率化を行うことがポイントです。評価範囲⇒整備状況評価⇒運用状況評価⇒評価調書の作成の順で、効率化を進めるべきです。この順番で行うことが一番効果が高く、かつ手戻り等の発生を防ぐことができます。

 

内部統制評価効率化事例①~評価方針の見直し~

始めに、評価方針の見直しによる内部統制評価効率化の事例を見ていきたいと思います。今までのやり方を変えることに抵抗があるかもしれませんが、評価方針を見直すことで、評価作業の工数を削減できる可能性はあります。

 

事例①業務評価の廃止
内部統制報告制度施行時に、監査法人と内部統制の構築を進め、J-SOX上のリスクに対するコントロールの評価に加え、自主的に業務評価(準拠性監査)を行い、コントロールの評価とは別に評価調書も作成していました。内部監査部門の作業が増えてきたことをきっかけに、評価方針を見直し、業務評価を廃止しました。内部統制が安定的に運用できていること、J-SOXが求めるコントロールの評価内容で問題ないことを理由に監査法人と協議・交渉し、業務評価の廃止を決定しました。

 

事例②ローテーションの評価実施
子会社も多く、全社統制の評価だけでも相当の工数がかかっていました。実施基準の改定(前年度の評価が有効かつ、前年度の整備状況に重要な変更がない項目については、重要度に応じて、前年度の評価結果を継続して利用することが可能)をきっかけに、評価項目のランク分けを行い、ローテーションの評価を実施しました。財務報告への影響が高い評価項目をA、A以外の評価項目をBと振り分け、Aは毎期評価を行い、Bは2年に1回のローテーションの評価としました。ただし、以下に該当する項目は、A・Bに関わらず、評価しています。
・前年度の評価結果が有効でない項目
・前年度の整備状況に重要な変更があった項目
・前年度に実績がなかったが、結果として有効とした項目

 

実施基準を踏まえながら、過去のやり方を見直すことが評価効率化を進めるきっかけになることもあります。過去のやり方に囚われず、常に評価方法を見直すことが重要です。

 

内部統制評価効率化事例②~評価項目の削減~

次に、評価項目の削減による効率化の事例を見ていきたいと思います。評価項目が必要以上に設けられ、評価作業が過多になっていることが見受けられます。同じような評価手続に着目し、評価項目を統廃合することにより、評価作業の工数を削減することができます。

 

事例①グループ全体からの評価項目の分析
子会社の評価を行う中で、親会社に依拠するコントロールが多いことが判明しました。全社統制は会社単位で行うことが原則であるため、個社別に評価を行っていましたが、リスク評価や内部監査等、グループ全体で統括しているコントロールは、子会社の評価では対象外としました。

 

事例②各統制の重複項目の統合
全社統制・決算統制・業務プロセス統制・IT統制でそれぞれ別の担当者が評価を行っていました。そのため、同じような評価内容をそれぞれの統制で評価していました。そこで、各評価調書の内容を比較し、重複している評価項目を統廃合を行いました。以下のような項目を統合しています。
・決算統制とIT全般統制で、重複していた会計システムのパスワード管理に関する評価を統合
・全社統制と決算統制で、重複していた会計方針の変更に関する評価を統合

 

個社別・統制別で見ていくと、なかなか気づきませんが、グループ全体の内部統制評価を俯瞰することにより、効率化の余地を発見することができます。内部統制はグループ全体で考えるものであるため、評価効率化もグループ全体の視点で検討すべきです。

 

内部統制評価効率化事例③~証憑収集の見直し~

証憑収集に係る作業の見直しを行った事例を見ていきたいと思います。証憑の収集は、現場部門の担当者にとって、大きな負担となっているのではないでしょうか。収集すべき証憑を限定する、サンプリング方法を標準化することで、証憑収集に係る工数を削減することができます。

 

事例①統制頻度の変更によるサンプル件数の削減
通常、統制頻度が少ない方が証憑の件数は少なくなります。しかし、証憑の総件数に着目し、統制頻度を月次から随時に変更して、証憑の件数を削減した事例もあります。「月末に、課長が売上集計表と請求書の金額を付け合わせて、承認する」というコントロールに対し、月次統制と認識し、売上集計表2件と請求書200件(月100件発生しており、その2カ月分)の合計202件の証憑を収集していました。証憑の総件数が多いため、統制頻度を随時統制に変更し、結果として、売上集計表9件(評価対象期間9カ月分)と請求書25件の合計34件に収集件数を削減しました。

 

事例②サンプリングマニュアルの整備
現場部門から、こちらが意図する証憑が提出されず、説明等に時間を要していました。証憑名を具体化するとともに、対象案件・件数等、証憑の収集方法を詳細に記載したマニュアルを作成しました。また、共有フォルダに過去の証憑を格納し、そちらを参照しながら収集を行うことを徹底させました。マニュアルに沿って証憑収集を行ってもらうことで、間違った証憑が提出されることがなくなり、内部監査部門と現場部門でのやり取りが減少しました。なお、評価を行う前には、事前にサンプリングマニュアルの説明も行っています。

 

内部統制評価は毎年行うものですが、現場部門の担当者にとっては、メインの業務でないため、対応方法を忘れてしまうということもあるようです。内部統制対応の啓蒙・説明を事前に行うことにより、評価作業も効率的に進めることができます。

 

内部統制評価効率化事例④~3点セットの簡素化~

最後に、3点セットの簡素化による評価効率化の事例を紹介します。3点セットは一度作成して終わりではなく、業務手順やシステム等の変更に伴い、更新する必要があります。3点セットのボリュームが大きいと、更新する際の作業負荷も大きくなります。

 

事例①3点セット記載粒度の見直し
3点セットを業務手順書として捉え、詳細な作業手順まで記載していました。記載した分だけ詳細に手順を追うことになるため、評価工数が多くかかっていました。3点セットは、財務報告に係るリスクとコントロールを明確にすることが目的であり、業務手順を細部に記録する必要はないということを踏まえ、3点セットの記載粒度を見直した事例です。財務報告に直接関係しない業務(例:FAXで報告書を送る、システム上の○○メニューにログインする等)を除外し、3点セットの記述を必要最低限にし、ウォークスルー等の評価工数を削減しました。

 

事例②2点セットの採用
3点セットの目的は、財務報告に係るリスクを把握することです。業務の流れ図(以下、業務フロー)・業務記述書・RCMの3文書を作成することは必須ではありません。そこで、業務フロー・業務記述書を一体にした事例です。業務フロー上に補足説明を文章で記述する形で、業務フロー・業務記述書を一体にしました。業務フロー・業務記述書を一体にすることにより、各文書の整合性チェックや文書更新の負荷を削減することができました。

 

3点セットのボリュームにより、業務プロセス統制の負荷が決まります。3点セットの文書数・内容を削減することにより、文書更新や評価作業の工数を削減できます。

 

まとめ

内部統制評価の効率化が進んでいない要因の一つに、今までのやり方に囚われてしまっているということが見受けられます。事業や業務の状況等を踏まえ、適宜見直しを行うことが重要です。環境の変化に伴い、内部統制評価にも変化が生じるはずです。見直していく中で、効率化の余地を探ることができるはずです。内部統制評価を見直す勘所として、今回ご紹介した事例を参考にしてください。

 

■内部統制評価効率化の進め方・考え方
☑限られたリソースの中で、内部監査部門の業務・役割が増えており、内部統制評価効率化の必要性が高まっている
☑ある部分だけ効率化するのではなく、全体から部分へ効率化を進めていく

 

■内部統制評価効率化事例①~評価方針の見直し~
☑内部統制が安定的に運用できていること、J-SOXが求めるコントロールの評価内容で問題ないことを理由に監査法人と協議・交渉する
☑実施基準を参照し、ローテーション評価を検討する

 

■内部統制評価効率化事例②~評価項目の削減~
☑グループ全体で統括しているコントロールは子会社の評価項目から除外する
☑各評価調書の内容を比較し、重複している評価項目を統廃合を行う

 

■内部統制評価効率化事例③~証憑収集の見直し~
☑収集する証憑の総件数に着目し、統制頻度を月次から随時に変更する
☑証憑名を具体化するとともに、対象案件・件数等、証憑の収集方法を詳細に記載したマニュアルを作成する

 

■内部統制評価効率化事例④~3点セットの簡素化~
☑財務報告に直接関係しない業務を除外し、3点セットの記述を必要最低限にする
☑業務フロー上に補足説明を文章で記述する形で、業務フロー・業務記述書を一体にする

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