市場区分見直し~IPOを目指す企業に求められるJ-SOX対応と内部監査~

2021年12月09日

 

2020年の新規上場企業社数は102社となり、近年の国内IPO件数は高水準で推移してきました。そのような状況の中、東京証券取引所は現在の市場区分を2022年4月4日より、「プライム」「スタンダード」「グロース」という新たな市場区分へ再編を予定しています。
そこで今回は、何故東京証券取引所では市場区分の再編を考えているのかという理由を踏まえながら、「プライム」「スタンダード」「グロース」という新たな市場区分がどのような特徴をもつ市場なのか確認するとともに、改めてこれから上場を目指す企業の内部監査部門のご担当者に向けて、上場の前後でJ-SOX・内部監査という観点から何をすべきかといった点を解説いたします。

 

市場区分見直しの理由

2022年4月4日、東京証券取引所ではプライム・スタンダード・グロースといった新市場区分への見直しを予定しています。

 

何故市場の見直しが行われるのでしょうか。理由はいくつかありますが、上場企業のガバナンスの不十分さの改善や東証一部の銘柄数の多さによる質の低下の改善、東証二部・マザーズ・JASDAQの位置づけの重複による市場コンセプトの曖昧さ等、いくつかの課題を解決するために行われるようです。

 

再編後は、上場企業全般のコーポレート・ガバナンスの改善、株価の歪み是正等が期待されます。
東京証券取引所が公表した資料でも「国内外の多様な投資者から高い支持を得られる魅力的な現物市場を提供することを目的として、3つの市場区分に見直す」と記載されています。

 

現状では、PBRが1を下回る1部上場企業が多く存在したり時価総額が250億円を下回る一部上場企業が多く存在したりと、一部上場企業の質の低下が問題となっているのにも拘わらず、東証一部に上場する企業数は増加傾向が続いています。

 

これは、一部上場基準、マザーズからの市場変更基準、上場廃止基準に違いがあったためこのような事態が起こっており、例えば、直接上場する際は時価総額が250億円なのに二部やマザーズからの一部上場の際は40億円だけで良いとされていたため、マザーズに上場してから一部へ市場変更する企業が増え、一部上場企業の数が増えていきました。

 

東証一部に上場した後は、時価総額が低くても企業への圧力はほとんどない状態となっており、上場廃止基準や二部への指定替え基準も低かったので、これらの矛盾を解消することが再編の目的と言われています。

 

プライム・スタンダード・グロース

プライム・スタンダード・グロースそれぞれのコンセプトは以下のようになります。

 

◆プライム市場:多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場

 

◆スタンダード市場:公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場

 

◆グロース市場:高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場

 

各市場区分のコンセプトに応じた上場基準、時価総額やコーポレート・ガバナンスに関する定量的・定性的な基準の設定が必要であることに加え、上場後も継続して各市場区分における新規上場基準の水準を維持することが求められます。

 

その他、各市場区分はそれぞれ独立としており「市場区分間の移行」に関する緩和された基準は設けない事になっています。新規上場基準と同様の基準が求められるようになります。
これまでのルールでは、マザーズから東証一部へ市場変更するにあたり時価総額40億円で良いという内容でしたが、新基準ではプライム市場上場の条件の時価総額は250億円に統一されます。
このように、プライム・スタンダード・グロースといった新市場では、いままでの矛盾が解消される仕組みとなります。

 

上場までに必要となるJ-SOX対応

上場を目指す企業は市場区分に関係なく内部統制構築・評価をすることが求められます。上場した後も構築、評価は永続的に毎年行う必要があります。

 

◆内部統制の構築
3点セット(「業務記述書」「業務フロー図」「リスクコントロールマトリクス」)を作成して会社で実施している業務フローの確認を行い、
内部統制がない、不十分だという事があった際に内部統制の構築を行います。例えば、ミスが発生している業務があったとして、チェックが十分ではないフローがあった場合に、上長のチェックを入れる等の業務改善を行います。これを構築と呼びます。

 

◆内部統制の評価
内部統制の評価は、構築した内部統制の仕組みを企業自らが評価する作業です。評価作業は、内部統制の整備状況を評価する作業と内部統制の運用状況を評価する作業の2つからなります。毎年評価範囲を決めて、内部統制に関する体制や規程等が正しく整備されているか評価(整備状況評価)し、業務上の承認やチェックフロー等が問題なく運用されているか評価(運用状況評価)して、上場後はその結果を取り纏め、有価証券報告書と共に内部統制報告書として開示することになります。

 

新規上場会社は、上場後最初に到来する事業年度末から内部統制報告書の提出が求められますが、上場後の3年間は公認会計士による監査の免除を選択することが可能です(金融商品取引法第193条の2第2項第4号)。
※ただし、社会・経済的影響力の大きな新規上場企業(資本金100億円以上、または負債総額1,000億円以上を想定)は監査の免除の対象外とされています。

 

このように、内部統制監査の免除の選択は可能ですが、内部統制評価をしなくてよいというものではなく、監査法人の監査がないだけで内部統制評価対応は必須になります。

 

上場までに内部統制の構築と評価を行い、最終的に内部統制報告書を開示する体制を整えることが、企業に必要な対応として要求されます。

 

上場までに必要となる内部監査対応

上場を目指す企業の責務として、内部監査の実施があります。
内部監査は、企業のコーポレートガバナンスを効かせるための重要なファクターであり、企業は、毎年有効な内部監査を実施する必要があります。内部監査部門の担当者は、上場してすぐにコンプライアンス違反にならないようにするため、優先的にコンプライアンスの問題を解決しておくことが求められます。

 

内部監査は、経営監査や部門監査、テーマ別監査等、いくつかの種類に分けることができますが、内部監査部門が担うべき監査は、部門監査とテーマ別監査です。会社によっては部門監査とテーマ別監査を併用することも求められます。

 

部門監査は部門や拠点(子会社)の業務がルール通りに運用されているか確かめることであり、テーマ別監査とは、個人情報保護や情報セキュリティ、BCP等の個別テーマを設けて監査項目をチェックすることになります。
まず企業が取り組むべきは部門監査であり、部門監査の実施状況・結果を踏まえて、テーマ別監査に重点を置いた監査に移行していくことになります。
主幹事証券会社は、上場審査上必要とされる全ての部署ないし拠点の監査を1年ごとに実施することを要求してきます。つまり、各部署・拠点に必要な規程やマニュアル類が整備され、その規程やマニュアル類に従って業務が行われているかを確かめることが求められます。上場までに、この一連の内部監査プロセスを実施することがゴールとなります。

 

また、繰り返しになりますが、コンプライアンスの問題を解決しておく必要がありますので、この点も重視しなければなりません。社内規程より以前に、法令に抵触していないかを内部監査でも監査することが求められています。

 

まとめ

これまで見てきたように、市場区分の見直し後もJ-SOX対応と内部監査対応はIPOを目指すには重要なファクターになります。自社の置かれた状況を踏まえ、それぞれに向けた対策を早めに検討することが求められます。

 

◆市場区分見直しの理由
・上場企業のガバナンスの不十分さの改善、東証一部の質の低下の改善、市場コンセプトの曖昧さを解決するために行われる。
・国内外の多様な投資者から高い支持を得られる魅力的な現物市場を提供することを目的として見直すとされている。

 

◆プライム・スタンダード・グロース
・各市場区分のコンセプトに応じた上場基準、時価総額やコーポレート・ガバナンスに関する定量的・定性的な基準の設定が必要。
・上場後も継続して各市場区分における新規上場基準の水準を維持することが求められ、旧市場区分の矛盾が是正される見込み。

 

◆上場までに必要となるJ-SOX対応
・「プライム」「スタンダード」「グロース」という新たな市場区分でも、上場において内部統制構築と評価、内部監査の実施が必須。
・内部統制監査は免除制度があるが、社内の内部統制の構築・評価はしなければならない。

 

◆上場までに必要となる内部監査対応
・内部監査の実施は上場審査項目の一つとして求められ、毎年全部署、全拠点の内部監査実施が必要になる。
・上場してすぐコンプライアンス違反の発覚とならないようにするため、コンプライアンスの問題の発見と解決をすることが求められる。

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