海外監査の実施ポイント~海外拠点における内部監査の基礎知識~

2023年06月15日

 

企業活動のグローバル化の進展や海外事業の成長に伴い、海外監査の必要性も高まっています。海外監査においては、監査の目的や組織体の規模によって進め方が異なり、さらには国によって法律や慣行が異なるため、多様な環境に合わせて内部監査を実施する必要があります。
いざ海外拠点の監査を進めようとしても、人材やノウハウ不足により、どのように進めるべきか悩まれていることが多いようです。また、急速な経営環境の変化の中で、内部監査の実施方法をより効率的に進めることも求められます。
今回は海外拠点における内部監査の進め方とポイントについて解説します。

海外拠点の予備調査~情報収集と事前調査~

海外監査を進める中で、海外拠点を取り巻く環境において、どのようなリスクがあるかを識別することが第一歩になります。過去に識別されたリスクについても、環境変化によるリスクの変化も常に留意する必要があります。監査の準備段階で海外拠点への情報量が不足すると、監査時に追加確認が発生し、効率的に監査を進めることが難しくなる可能性があります。海外監査を行う前の情報収集と事前調査が非常に重要になります。ここで、情報収集と事前調査の実施方法およびポイントについて、触れてみたいと思います。

 

■情報収集方法
①本社から入手可能な規程やマニュアル、組織図、現地からの稟議申請書や事業報告書等を収集する。
②その国の事情に詳しい現地の従業員に、質問やインタビューを行い、海外拠点を取り巻く情報を入手する。
③現地法制度における情報は、なるべく現地メディアで発表される最新の情報をオンタイムで収集する。
④グループ会社内で共通のITツールを利用している場合、業務情報等を直接入手する。
ポイント:海外拠点にて発生した偶発事象、不正事項、過去の監査指摘事項等を入手しておくことも重要です。

 

■事前調査方法
①収集した情報を基に、海外拠点に影響するリスクを洗い出しする。
②識別されたリスクについて、リスク要因と予期される影響を把握し評価を実施する。
③リスクの影響度と発生可能性を分析し、海外拠点におけるリスクの優先順位をつける。
ポイント:すべてのリスクに対応することは困難であるため、優先的に対応すべきリスクを事前に検討し、対応方法を決定します。

 

海外拠点の監査は、国内と比較して、法令、制度、商習慣、文化や言語が異なるため、海外特有の経営環境やリスクを把握する必要があります。そのため、監査の準備段階における予備調査のリスク評価が重要な第一歩になります。過去に行ったリスク評価結果をそのまま流用するのではなく、外部環境の変化によって新たなリスクが発生することや、リスク重要性の変化もあるため、時間の経過と共に現状を踏まえて、リスク評価の見直しを行うことも大切です。

 

海外拠点の監査計画~項目設定と監査通知~

海外拠点における監査計画は一般的には個別監査計画と言い、中長期監査計画や年間監査計画に基づいて、計画が立てられます。海外拠点が監査計画に含まれている場合は、個別監査計画を策定し、監査の目的、主な監査項目の策定、監査リソースの補充を行ったうえで、被監査拠点へ監査通知を行います。

 

■監査項目設定
前述のように海外拠点の監査は、個別監査計画にて定められた目的に沿ってリスクを識別し、リスク評価を行います。海外拠点の高リスクとして、法規制への不適応、従業員による不正行為、労使間のトラブル等が挙げられます。ここで留意すべきことは、識別されたすべてのリスクに対して監査項目を設定するのではなく、リスクの重要度と優先度を考慮し設定するということです。設定した監査項目の内容を監査基準となるチェックリストに記載し、各項目の監査手続やチェックポイントを明確にします。

 

ポイント:重要性が高い海外拠点においては、一回の監査で多くの項目を確認することではなく、監査頻度を増やして段階的に進めていくことが重要です。過去に監査の実績があれば、前回の監査結果を踏まえて設定することが重要です。

 

■監査実施通知
順調に監査を進めていくためには、監査方針、目的や進め方を事前に共有し、監査に対する理解を深めておくことが非常に重要です。

 

ポイント:監査目的、監査項目、監査スケジュール、監査体制、監査対応者等を細かく記載し、関係者へ監査通知を行うことです。また、海外拠点は監査の準備やスケジュールの調整もあるため、概ね本監査の一か月前に通知しましょう。

 

海外特有の事情があるため、ビジネスリスク、法令遵守、不正への対応、ルールの整備・周知、親会社への報告、内部通報制度の整備等を考慮する必要があります。海外拠点の監査においては、海外拠点と関係がある外部委託先や外部専門家とインタビューを実施することもあります。「監査通知書」にインタビュー対象者を網羅的に盛り込んでおくことが重要です。

 

海外拠点の監査実施~実施方法とメリット~

監査を進めるにあたり、監査計画にマッチする監査方法の選択に悩まれることが多くないでしょうか。監査の実施方法には、大きく分けて書面監査、リモート監査、実地監査に分類されます。近年環境の変化により、監査方法も変わっており、従来の実施監査から書面監査やリモート監査に切り替わって実施している会社も多くなっています。監査をより効率的に進めるには、適切な監査方法を選択することが重要です。本節では、監査の実施方法、推奨する組織体とそれぞれのメリットについて解説します。

 

■書面監査
書面監査とは、アンケート形式で確認事項を送付し、運用状況や証跡を返答する形の監査になります。
<推奨する組織>
①海外拠点の組織体制が単一で規模が小さく、リスクが高くない場合に利用する。
②法対応として、緊急時に短期間で監査が必要な場合に利用する。
③実地監査において、監査項目数が多い場合、一部の項目を書面監査で代替し実施する。
メリット:従来の監査より時間の制限が少なくなるため、効率的に進めることが可能になります。

 

■リモート監査
リモート監査とは、Webツールを利用し遠隔で行うリモート監査になります。監査期間中に必要に応じWeb会議を通じて監査します。
<推奨する組織>
①海外拠点のある程度規模があるものの、内部統制の成熟度が高い組織を対象にする。
②過去に監査を実施したことがあり、近年大きな変化ない場合に利用する。
③ITインフラが整っており、遠隔で監査の対応が十分な組織を対象にする。
メリット:時間や労力等の監査コストを削減できるため、比較的容易に監査を行うことが可能になります。

 

■実地監査
実地監査とは、現地に向かい対面で実施する監査のことで、一般的には往査ともいいます。
<推奨する組織>
①海外拠点の規模が大きく、リスクが高く、内部統制の成熟度が低い場合に利用する。
②監査の実績がない或は監査頻度が少なく、業績が著しく成長している組織を対象にする。
③不正の兆候が検出されたり、不正調査を行う必要がある場合に利用する。
メリット:対面で監査を行うことにより、査の信憑性が上がることや心証が得られることが一番大きな利点です。

 

海外拠点の規模や成熟度を踏まえて、実態に即した監査方法(実地監査、書面監査、リモート監査)や実施頻度を選択し、効率的で有効な監査を実施する必要があります。但し、不正の兆候がある場合は、書面監査やリモート監査での不正調査が難しいため、実地監査で対応することが望ましいです。

 

 

海外拠点の監査報告~報告書の作成とフォローアップ~

本監査を終えた後に、検出された事項等の監査結果を監査報告書に取り纏める必要があります。検出事項には、直ちに是正すべき重要な不備、軽微な不備、推奨事項等があります。本節では、監査報告書の作成からフォローアップまでのポイントについて説明します。

 

■監査報告書の作成
監査報告書の作成にあたり、不備内容を明確にし、リスク内容および影響度、優先度を明確にします。軽微な不備や推奨事項の場合は、費用対効果を考慮し、作成する必要があります。監査報告書を作成し、マネジメント層に提出する前に、海外拠点の関係者と密にコミュニケーション取って認識合わせを行うべきです。

・ポイント:海外拠点からより深い理解を得るためには、監査報告書は現地語で翻訳したものを海外拠点の関係者に提出し、内容に認識の齟齬がないかを必ずフィードバックをもらうようにしましょう。

 

■改善指示書・改善計画書
不備事項によって改善に時間が要するものと即時に改善できるものがあるため、対応時期を明確にしておくことが望ましいです。「改善指示書」は、改善事項のみ記載するのではなく、目的や必要性、改善によるメリット等を説明することが重要です。

 

・ポイント:改善案を提示する際に、複数の改善案を提示し、現場側と協議したうえで、最善策を検討したほうが良いです。

 

■フォローアップ監査
海外拠点から作成された「改善計画書」を基に、ある程度の時間をおいてから、改善対応が正しく実行されているかを確認しましょう。また、必要に応じて再調査を行うことも大切です。

 

・ポイント:是正対応はなるべく会計年度内に完了するようにし、時間が要する事項については、次年度に引き続きモニタリングを行うことが重要です。

 

改善対応やフォローアップ監査を進める中で、内部監査人によって解決できない問題も出てくる可能性もあります。その場合は、経営者や取締役会、監査役会等に状況を速やかに報告する必要があります。

 

まとめ

海外拠点の規模や内部統制の成熟度、現地の社会リスクやビジネスリスクは内部監査業務に影響します。監査の目的や海外拠点の環境に合わせた監査方法を選択し、効率的に進めることが重要です。今回紹介した海外監査の各段階においてのポイントは以下の通りになります。

 

■海外拠点の予備調査~情報収集と事前調査~
・現地法制度における情報は、現地メディアで発表される最新の情報を収集する。
・海外拠点にて発生した偶発事象、不正事項、過去の監査指摘事項等を入手する。
・すべてのリスクに対応することは困難であるため、優先的に対応すべきリスクを事前に検討する。

 

■海外拠点の監査計画~項目設定と監査通知~
・監査項目をチェックリストに記載し、各項目の監査手続やチェックポイントを明確にする。
・一回の監査で多くの項目を確認するのではなく、監査頻度を増やして段階的に進める。
・監査の目的、監査項目、監査スケジュール、監査体制、監査の対応者等を細かく記載する。

 

■海外拠点の監査実施~実施方法とメリット~
・書面監査は、海外拠点の組織体制が単一で規模が小さく、リスクが低い場合に利用する。
・リモート監査は、内部統制の成熟度が高く、かつ、過去に監査を実施し、近年大きな変化ない場合に利用する。
・実地監査は、規模が大きく、内部統制の成熟度が低く、業績が著しく成長している場合に利用する。

 

■海外拠点の監査報告~報告書の作成とフォローアップ~
・監査報告書は翻訳したものを海外拠点の関係者に提出し、認識の齟齬がないかを確認する。
・「改善指示書」は、改善目的や必要性、改善によるメリット等を記載し、複数の改善案を提示する。
・内部監査人によって問題を解決できない場合は、経営者や取締役会、監査役会等に状況を報告する。

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