IFRSを巡る日本の動向と開示制度改正~記述情報と監査報告書の見直し

2019年04月18日

 

2019年3月27日、JFAEL(会計教育研修機構)が主催する「IFRSの実務、移行経験の共有2019」に参加してきましたので、今回は、そのセミナーに参加した感想と気になったポイントを解説したいと思います。
このセミナーは、IFRSの動向から実際の事例まで広く解説する機会でしたが、私が参加して気になったのは、金融庁の方が担当されていたセッションになります。このセッションでは、「IFRSを巡る動向と当面の開示行政の課題」と題し、短い時間ながらも、非常に興味深い内容を聞くことができましたので、ご紹介します。
※あくまでも個人的な見解として、参加した感想や気になった点をコメントします。

 


IFRSを巡る動向

当日のセッションでは、まず上場企業におけるIFRS適用状況の解説があり、2019年2月末時点においては、IFRSの任意適用企業が210社に到達したとの報告がありました。2010年12月末時点では3社だった企業数が210社になったのですから、粛々と任意適用企業が拡大・促進されていると言えます。この210社を多いととらえるか、少ないととらえるかは考えようだとは思いますが、上場企業の数が3000社を超えるという点を考えると、IFRS適用企業は7%程度になります。しかしながら、IFRSを適用ないし適用予定の上場企業の時価総額は、約219.5兆円(2019年2月末時点)とのことで、この金額は日本の全ての上場企業の時価総額に占める34.4%になるとのことです。
また、当セッションにおいて、日本基準の高品質化に向けたASBJ(企業会計基準委員会)の取り組みが紹介され、あるべきIFRSの内容についての意見発信の強化や国際会計人材の育成(国際会計人材ネットワークの構築)についての重要性が解説されました。
ASBJでは、2018年3月に「収益認識に関する会計基準」を策定後、日本基準を国際的に整合するものとするため、下記のIFRSに関する日本基準の開発・改訂について取り組んでおり、今後は仮想通貨に関する会計基準等の策定も予定しているとのことです。
●IFRS第9号「金融商品」
●IFRS第10号「連結財務諸表」
●IFRS第13号「公正価値測定」(2019年1月、公開草案公表)
●IFRS第16号「リース」

開示制度改正の全体像

当日のセッションでは、IFRSを巡る動向のほか、開示制度の改正についての解説がありましたので紹介します。1つは記述情報(有価証券報告書)の見直し、そしてもう1つは監査報告書の見直し(KAM導入)です。
なお、記述情報とは、いわゆる非財務情報のことであり、財務情報以外のKPI(経営管理指標)等を指し、KAMとは、Key Audit Mattersの略で「監査上の主要な検討事項」を意味します。
■記述情報(有価証券報告書)の見直し
記述情報(有価証券報告書)の見直しは、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告に基づいて、開示布令の改正として交付・施行(2019年1月31日)されました。主な改正内容としては、記述情報の記載の充実、監査関係の情報の充実、ガバナンス情報の充実からなり、2019年3月期から2020年3月期にかけて適用されていくものになります。
■監査報告書の見直し(KAM導入)
監査報告書の見直しは、監査報告書の透明化(平成30年7月監査基準改訂)や会計監査についての情報提供の充実に関する懇談会報告書(平成31年1月公表)を経て、「会計監査の信頼性確保」に向けた施策の1つになります。監査人が「監査上の主要な検討事項(KAM)」を記載する新たな取り組みであり、監査の過程で着目した会計監査上のリスク等を記載するもので、2021年3月期決算から適用されます。
*一部企業については、2020年3月期決算からの早期適用の可能性があります。

 

記述情報(有価証券報告書)の見直し

それでは、記述情報(有価証券報告書)の見直しから、その概要を見ていきましょう。制度の主な内容は下記の通りになります。この点については、金融庁より「記述情報の開示に関する原則」が公表されていますし、「記述情報の開示の好事例集」にて、先進企業の開示例も公開されていますので、詳細については一読されることをお勧めいたします。
■経営目線の議論の適切な反映
今後は、経営方針・経営戦略等、経営成績等の分析(Management Discussion and Analysis)、リスク情報といった 情報の開示を充実させることが求められます。財務情報だけでは判別できない、経営の方向性を理解し、将来の経営成績等の予想の確度をより高めることが目的です。
■重要性(マテリアリティ)
有価証券報告書における重要性の投資判断は、企業の業態や企業が置かれた時々の経営環境等によって様々です。
このことから、個々の課題や事象等が自らの企業価値や業績等に与える重要性(マテリアリティ)に応じて説明の順序や濃淡等を判断して開示情報を提供するように求めています。
■資本コスト等に関する議論の反映
取締役会や経営会議における成長投資・手許資金・株主還元のあり方や資本コストに関する議論、ならびにそれらを踏まえた今後の経営の方向性のディスクロージャーへの適切な反映が必要であるとしています。
■セグメント情報
企業経営の多角化が進む中、事業セグメントを適切に区分して、深度あるセグメント情報を記載することが重要となります。
このため、報告セグメントごとの開示に加えて、経営方針や経営戦略等の説明に適した区分(例えば、事業セグメントや地域セグメント)ごとの情報を開示する等、充実した開示をすることが有用であるとしています。
■分かりやすさ(図表やグラフ等の活用)
記述情報の開示に当たっては、その意味内容を容易に、より深く理解することができるよう、わかりやすく記載することを求めています。図表やグラフ、写真等の補足的なツールを用いたり、前年からの変化を明確に表示したりするなど、投資家の分かりやすさを意識した情報開示が期待されています。

 

 

監査報告書の見直し(KAM導入)

次に、監査報告書の見直し(KAM導入)の概要を見ていきます。今回の大きな改正は、「監査上の主要な検討事項:KAM」を監査報告書に新たに記載することを求めた点にあります。監査上の主要な検討事項は、当期の財務諸表の監査において監査人が特に重要と判断した事項をいい、監査役等に伝達した事項の中から選択されます。
■KAMの決定と監査報告書の記載内容
監査上の主要な検討事項は、監査上の主要な検討事項の「内容」、監査人が監査上の主要な検討事項であると「決定した理由」、監査における「監査人の対応」を記載することが求められます。
例えば、固定資産の減損であれば、固定資産残高や減損の金額といった内容、経営者の主観的な判断が含まれるとした決定の理由、実施した監査手続の詳細を監査人の対応として記載することになります。
■適用される会計監査の範囲
KAMは金融商品取引法の監査に適用されます。当面は、会社法に基づく開示に係る監査報告書は適用の対象外となります(任意適用は可。ただし、非上場企業のうち資本金5億円未満又は売上高10億円未満かつ負債総額200億円未満の企業は除く)。
■適用時期
KAMの導入は2021年3月期決算から適用されます。なお、2020年3月期決算については、東証1部上場企業を対象に、東証・公認会計士協会からの通知等により、早期適用を促すとしています。

 

記述情報と監査報告書の見直しは、どちらも投資家(財務諸表利用者)と経営者の対話を促進させることに目的があります。記述情報の充実では、単なる事実を機械的に開示させるのではなく、経営者の思いまでより積極的に発信させることで、投資家の判断に有益な情報を提供するものです。一方、監査報告書の見直し(KAM導入)についても監査人と経営者がもっとコミュニケーションを取り、事実ベースの客観的な情報だけでなく、より解説的な情報を積極的に発信して、投資家の知りたいことに応えていこうという趣旨です。
今回の開示制度改正により、企業担当者は、今まで以上に経営者や監査人とコミュニケーションを取る時間を確保し、充分な議論を重ねたうえで、充実した開示情報を作成・発信していくことが求められています。

 

 

まとめ

IFRSを巡る動向
IFRSの任意適用企業は210社・時価総額割合34.4%(2019年2月28日時点)
IFRSに関する日本基準の開発・改訂について取り組み状況
●IFRS第9号「金融商品」      ●IFRS第10号「連結財務諸表」
●IFRS第13号「公正価値測定」   ●IFRS第16号「リース」
上記のほか、仮想通貨に関する会計基準等の策定を予定
開示制度改正の全体像
■記述情報(有価証券報告書)の見直し
■監査報告書の見直し(KAM導入)
記述情報(有価証券報告書)の見直し
■経営目線の議論の適切な反映    ■重要性(マテリアリティ)
■資本コスト等に関する議論の反映  ■セグメント情報
■分かりやすさ(図表やグラフ等の活用)
監査報告書の見直し(KAM導入)
「監査上の主要な検討事項:KAM」を監査報告書に新たに記載する。
■監査上の主要な検討事項の「内容」
■監査上の主要な検討事項であると「決定した理由」
■監査における「監査人の対応」
KAM:Key Audit Mattersの略

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