販売業務に係るマスタ登録、管理でおさえておきたい内部統制の構築・評価ポイント

2019年12月12日

 

今回は、マスタの登録や管理に係る内部統制のお話しです。あらかじめマスタとしてデータを登録しておくことで、伝票などへの入力ミスや、架空の取引を防げる可能性があるため、マスタの登録、管理に係る統制はJ-SOXで欠かせないものとなっています。今回は、販売業務に係るマスタ登録や管理においておさえてほしい内部統制の構築や評価ポイントについて説明します。

 


マスタ登録における承認について

最初に商品マスタ、顧客マスタといったマスタの種類を限定せず、マスタ登録における共通として、構築したい「承認」についてのお話をしたいと思います。J-SOXにおいて「承認」という統制の構築や評価は欠かせないものとなり、ここではマスタ登録プロセスにおいておさえてほしい「承認」に係る前提をお伝えします。

 

1. マスタ登録承認の種類について
マスタ登録における承認は、マスタ登録の事前と事後で2種類あります。
①マスタ登録事前承認
不要なまたは架空のマスタ登録を防ぐために、マスタ登録の前に事前申請を行い、その承認を行います。

 

②マスタ登録事後承認
誤ったマスタを登録しないよう、申請内容を確認し、実際のマスタ登録後の結果を承認します。

 

マスタの架空登録や登録誤りといったリスクを考えると、マスタ登録前後の両方の承認を取る事がマスタ登録に
おいてあるべき姿だと思います。

 

2. 承認者について
マスタ登録プロセスにおける承認者は、システム利用部門の責任者およびシステムを管理・統括する情報システム部門の責任者になる事が多いです。
販売管理システムを例に挙げれば、営業部の部長は、マスタ登録の事前・事後の承認者、情報システム部の部長は、マスタ登録後の承認者になります。

 

3. マスタ登録の承認における形式について
マスタ登録における申請から承認に関して、申請書を一般的に使用します。紙やExcel、最近ではワークフローシステムの使用が多くなっています。申請書の使用により、申請者や承認者を一覧で確認できるというのが、内部統制構築および評価上のメリットです。

 

 

マスタ登録~商品マスタ登録における内部統制構築・評価ポイント

続いて、商品マスタの登録に特化した内部統制の構築および評価ポイントについて説明します。
価格や、商品のサイズ、ロット等物流情報が含まれている商品マスタの登録については、以下のポイントを踏まえて内部統制を構築します。

 

構築①新規商材追加に関する社内決裁を行う。
商品マスタ登録における前提として、新商品を追加する際は、新商品自体に問題がないか社内で稟議等による決裁を行います。マスタ登録以前の話として、安易に新商品が追加されないようにするためです。

 

構築②価格決定・変更の社内決裁を行う。
信頼性のある財務報告を行うにあたり、商品マスタの中では価格が重要になります。価格マスタの登録申請の前に、商品の価格が妥当であるか、ある特定の人が独断で価格決定しないよう、社内での決裁が必要です。

 

商品マスタ登録における内部統制の評価のポイントは以下の通りです。
評価①稟議書等にて新規商材追加等が社内決裁されているかを確認する。
稟議書を閲覧し、新商品追加や、価格決定・変更が、職務権限規程に定める決裁者に基づき承認されているかを評価します。

 

評価②商品マスタの画面コピーにてマスタ登録内容が事前・事後承認されているかを評価する。
先程お話しした構築したマスタ登録の承認フローについて、申請書にマスタ登録の事前・事後承認証跡があるかを評価します。また商品マスタの画面コピーを取り、申請書の内容通りにマスタ登録が行われているかの確認をすることももう一つの評価ポイントです。留意点として、商品マスタは常に最新の情報が表示されているので、登録・変更した時点の画面コピーを現場がとり、J-SOXの評価証憑として残しておくとよいでしょう。

 

マスタ登録~顧客マスタ登録における内部統制構築・評価ポイント

次に顧客マスタ登録における内部統制の構築および評価ポイントについて説明します。
取引先の会社の登録を行うにあたり、会社の信用調査を怠り貸倒れてしまう、または実在しない会社を登録し、不正に資金を流出させてしまうといったリスクが想定されます。このようなリスクを防ぐために取引先マスタ登録において以下をポイントに内部統制を構築します。

 

構築①取引先の与信調査を行い、新規取引の社内決裁を取る。
顧客マスタ登録における前提として、取引先と新規取引を開始する場合は取引先の与信調査を行います。
営業部側からの申請を受けて、経理部は、帝国データバンク等の信用調査会社からの情報を収集するといった与信調査におけるワークフローを構築します。そして与信調査結果を基に、伺い書等で新規取引の社内決裁を取りますが、ここで会社の評点のつけ方もルール化しておく事が構築のポイントになります。

 

構築②与信限度額の変更における社内決裁を行う。
新規取引先との取引開始後、会社の信用が得られたら、与信限度額を上げて変更するケースがあります。
与信限度額を安易に変更しないよう権限上定められた決裁者による決裁が必要です。
変更する与信限度額によって決裁者が変わり、金額が大きくなるにつれて決裁者が増えるというのが一般的な運用になると思います。

 

顧客マスタ登録における内部統制の評価のポイントは以下の通りです。
評価①伺い書等にて取引先調査結果が社内決裁されているかをチェックする。
伺い書を閲覧し、与信調査結果が記載されている事、取引先企業の評点ルールに基づき評点されている事を確認します。

 

評価②顧客マスタの画面にてマスタ登録・変更内容が事前・事後承認されているかを評価する。
商品マスタと同様のやり方で、マスタ登録の申請書に事前・事後承認があるかを確認します。
また顧客マスタの画面コピーを閲覧し、マスタ登録の申請書や申請書に添付された伺い書の内容通りに、取引先マスタが登録されている事または与信限度額等が変更されているかを評価します。

 

 

マスタ管理~マスタの棚卸における内部統制構築・評価ポイント

最後にマスタの棚卸における内部統制の構築および評価ポイントについて説明します。
マスタの棚卸とは、使用されていないマスタが放置されていないか洗い出しを行い、あるべきマスタの状態にしておく事です。未使用または古い商品マスタや、顧客マスタが放置されていると、誤ったマスタを選んでしまったり、不正に利用されてしまうリスクがあります。
こういったリスクを防ぐために会社ではマスタの棚卸を行いますが、以下をポイントに内部統制を構築します。

 

構築①システム利用部門が定期的にマスタを出力し、不要なマスタが残っていないかチェックする。
システムの利用部門が半期または最低年次といった頻度を決め、マスタのリストを出力し、例えば1年以上オーダーがない顧客はマスタを使用停止するといったルールに基づきマスタを停止します。

 

構築②システム利用部門および情報システム部門の責任者が、マスタの棚卸結果を承認する。
マスタの棚卸についても、登録と同様承認が必要です。マスタの棚卸を行ったシステムの利用部門の責任者だけでなく、システムの管轄を行う情報システム部門の責任者の承認もあるとよいでしょう。

 

マスタの棚卸における内部統制の評価のポイントは以下の通りです。
評価①システム利用部門がマスタの棚卸を行っている事、マスタが使用停止されているかを評価する。
会社でルール化した実施頻度に基づき、システム利用部門が不要なマスタをチェックしているかマスタのリストにて評価します。またマスタ画面コピーを閲覧し、リストに基づきマスタが使用停止されている事を確認します。

 

評価②システムの利用部門および情報システム部門の責任者の承認状況を評価する。
マスタのリストにシステムの利用部門および情報システム部門の責任者が承認しているかをチェックします。

 

以上がマスタ棚卸における内部統制の構築、評価ポイントについてのお話しになります。

 

販売業務に係る統制を構築する中で、マスタの登録や管理については、重要性を意識しておかないとつい忘れがちになります。信頼性のある財務報告を行うにあたり、マスタのような、データの入口の管理を行う事は必要不可欠です。本日のお話を元にマスタの登録や管理の重要性を認識した上で、内部統制の構築や評価を行っていただければと思います。

 

 

まとめ

[マスタ登録における承認について]
1. マスタ登録承認の種類について
マスタ登録事前および事後承認
2. 承認者について
システム利用部門の責任者および情報システム部門の責任者
3. マスタ登録の承認における形式について
申請から承認まで申請書を使用

 

[マスタ登録~商品マスタ登録における内部統制構築・評価ポイント]
構築①新規商材追加に関する社内決裁
構築②価格決定・変更の社内決裁
評価①稟議書等にて新規商材追加等が社内決裁されているかの確認
評価②商品マスタの画面コピーにてマスタ登録内容が事前・事後承認されているかの評価

 

[マスタ登録~顧客マスタ登録における内部統制構築・評価ポイント]
構築①取引先の与信調査を行い、新規取引の社内決裁
構築②与信限度額の変更における社内決裁
評価①伺い書等にて取引先調査結果が社内決裁されているかのチェック
評価②顧客マスタの画面コピーにてマスタ登録・変更内容が事前・事後承認されているかの評価

 

[マスタ管理~マスタの棚卸における内部統制構築・評価ポイント]
構築①システム利用部門にて不要なマスタが残っていないかをチェック
構築②システム利用部門および情報システム部門の責任者によるマスタの棚卸結果の承認
評価①システム利用部門にてマスタの棚卸を行い、マスタが使用停止されているかの評価
評価②システムの利用部門および情報システム部門の責任者の承認を評価

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