最低限おさえておきたい連結決算の基礎知識~親子会社間の会計処理の統一~

2020年05月14日

 

連結決算の実務において、日本の親会社が特に在外子会社を多く保有している場合の重要論点の一つに親子会社間の会計処理の統一があります。
親会社が日本基準を採用して連結財務諸表を作成する際、同一環境下で行われた同一の性質の取引等については、原則として会計処理を統一しなければなりません。
しかしながら、実務上の便宜を考慮して、子会社が国際財務報告基準(IFRS)もしくは米国会計基準を採用して財務諸表を作成している場合、一定の項目について修正することを条件に、連結決算手続上、そのまま利用できることになっています。
今回は細かい説明を省略し、親子会社間の会計処理の統一について基本的な内容をお伝えします。

 


親子会社間の会計処理の統一とは

まずは、連結決算における親子会社間の会計処理の統一とは何かについてお話します。
日本の連結財務諸表に関する会計基準において、同一環境下で行われた同一の性質の取引等について、親会社及び子会社が採用する会計方針は原則として統一することとされています。簡単に言えば、親会社と子会社で同じ事業を行っているような場合は、同じ会計方針のもとで決算書を作成しなさいということです。
つまり、親会社が日本基準に基づいて連結財務諸表を作成する場合、原則的には子会社も日本基準を採用して財務諸表を作成する必要があるということになります。
しかし、特に海外子会社であればその国や地域独自の会計基準に従って財務諸表を作成しなければならないうえ、日本基準に基づく財務諸表も別途作成するというのはあまりに負担が大きすぎます。
そのため、実務上の便宜を考慮し、当面の取扱いとして、子会社が国際財務報告基準(IFRS)もしくは米国会計基準を採用して財務諸表を作成している場合、一定の項目について修正することを条件に、そのまま連結決算手続上利用することが認められています。
なお、このような取扱いは、海外子会社だけでなく国内の子会社がIFRSもしくは米国会計基準を採用している場合にも適用されます。

連結決算手続上修正が必要となる5項目

次に、子会社がIFRSもしくは米国会計基準を適用して財務諸表を作成していたとしても、重要性が乏しい場合を除いて修正が必要となる5項目についてご紹介します。
(1) のれんの償却
日本の会計基準では、のれんを20年以内の効果が及ぶ期間にわたって、定額法などの合理的な方法により規則的に償却する必要があります。これに対して、IFRSや米国会計基準においては、のれんを償却する必要がありません。
よって、のれんを償却していない場合、のれんの償却額を当期の損益として修正しなければなりません。
のれんの会計処理の違いについては、ご存知の方も多いのではないかと思います。
(2) 退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理
退職給付会計について、日本の会計基準では数理計算上の差異(退職給付債務や年金資産に関する予測値と実績値の差額)の未償却部分を連結貸借対照表の純資産の部において、「その他の包括利益累計額」として計上するとともに、償却部分については連結損益計算書において費用計上(一括費用処理も可)します。
このように当期または前期以前にその他の包括利益として処理したものを当期の損益として計上しなおすことをリサイクリングといいます。
それに対して、IFRSでは数理計算上の差異を「その他の包括利益累計額」として即時認識しなければならず、当期純損益へのリサイクリングは行えないため、当期の損益への影響は生じません。
また、米国会計基準においては、ここでは詳細な説明を割愛しますが、回廊(コリドー)アプローチという日本基準ともIFRSとも異なる会計処理が求められています。
したがって、数理計算上の差異については、日本基準・IFRS・米国会計基準で会計処理が異なるので、修正が必要となります。
(3) 研究開発費の支出時費用処理
日本の会計基準と米国会計基準では、研究開発費は原則として発生時の費用として処理することとされています。
一方、IFRSにおいては、研究段階の費用は費用として処理するものの、開発段階の費用については一定の要件をみたす際に、資産計上することが認められています。
そのため、日本基準とIFRSで差異が生じる場合、その差額についても修正する必要があります。
(4) 投資不動産の時価評価及び固定資産の再評価
日本の会計基準では、投資不動産や固定資産の評価において、取得原価で認識する原価モデルが採用されているため、基本的に保有した後、時価(公正価値)評価する必要はありません。
これに対しIFRSでは、投資不動産や固定資産を保有した後の評価において、原価モデルと公正価値で認識する再評価モデルの選択適用が認められています。
よって、IFRSに基づいて再評価モデルを採用し投資不動産や固定資産を公正価値で評価している場合には差異が生じるため修正が必要です。
(5) 資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整
この項目は、日本の親会社が3月決算会社であれば、2020年3月期より修正の検討が新たに必要となりました。
日本の会計基準では、株式といった資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益として計上する場合でも、売却時に生じた売却損益や減損処理に伴う減損損失については、当期の損益として認識します。
それに対しIFRSでは、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動を原則的には当期の損益として認識しますが、その他の包括利益として認識することも可能です。前者は純損益を通じた公正価値という意味でFVTPL(Fair Value Through Profit or Loss)、後者はその他の包括利益を通じた公正価値という意味でFVOCI(Fair Value Through Other Comprehensive Income)と呼ばれています。
そして、FVOCIに分類された資本性金融商品については、売却損益や減損損失の認識時も当期の損益ではなく、その他の包括利益を計上しなければなりません。
つまり、FVOCIに分類された資本性金融商品に係る売却損益や減損損失について、連結決算手続上、その他の包括利益から当期の損益へ組み替える調整が必要となるわけです。

 

IFRS第16号「リース」の取扱い

続いて、3月決算会社では2019年6月の第1四半期から適用が開始されたIFRS第16号「リース」を採用している子会社におけるリース取引に関する会計処理の連結決算上の取扱いを説明します。
日本の会計基準では、ファイナンス・リース取引について、原則として資産及び負債を計上する必要があります。
これに対して、IFRS第16号「リース」では、すべてのリース取引について、原則として資産及び負債を認識することが求められていますので、日本基準との間で差異が生じます。
しかし、この差異については、現在の日本の会計基準上では、子会社がIFRSを適用して財務諸表を作成している場合、IFRS第16号「リース」を採用したリース取引の会計処理については修正することなく、そのまま連結決算手続で利用することができます。

 

親子会社間の会計処理の統一は、日本の会計基準を初めとして、IFRS・米国会計基準・子会社の所在国の会計基準に関する知識が求められるなど、連結決算を担当されている方にとっては、大変負担が重い論点だと思いますが、連結財務諸表の精度を高めるうえで非常に重要なテーマです。
本ブログを連結決算実務における重要論点の一つである親子会社間の会計処理の統一に関する基本の理解に役立てていただきたいと思います。

 

 

まとめ

■親子会社間の会計処理の統一とは
親会社が日本基準に基づいて連結財務諸表を作成する場合、原則的には子会社も日本基準を採用して財務諸表を作成する必要がある。ただし、当面の取扱いとして、子会社が国際財務報告基準(IFRS)もしくは米国会計基準に基づいて財務諸表を作成している場合、一定の項目を修正することを条件に、そのまま連結決算手続上利用することが認められている。
■連結決算手続上修正が必要となる5項目
子会社がIFRSもしくは米国会計基準を適用して財務諸表を作成していたとしても、重要性が乏しい場合を除いて修正が必要になるのは以下の5項目である。
(1)のれんの償却
(2)退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理
(3)研究開発費の支出時費用処理
(4)投資不動産の時価評価及び固定資産の再評価
(5)資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択をしている場合の組替調整
■IFRS第16号「リース」の取扱い
現在の日本の会計基準上では、子会社がIFRSを適用して財務諸表を作成している場合、IFRS第16号「リース」を採用したリース取引の会計処理については修正することなく、そのまま連結決算手続で利用することができる。

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