事例から見直すJ-SOX評価範囲~評価範囲縮小の糸口になる選定事例~

2020年05月28日

 

内部統制(J-SOX)においては、全ての拠点や業務プロセス・システムを評価対象にする必要はなく、重要性を考慮し、評価範囲を選定します。評価範囲の選定基準は、金融庁から公表されている内部統制実施基準にて記載されていますが、実務対応上、評価範囲の判断に迷うことがあるのではないでしょうか。
また、企業側としては評価範囲をできるだけ狭くしたいと考える一方、監査法人側が保守的に考え、評価範囲を広めにすることを求められ、どう対処すべきか悩むという声を聞くこともあります。
そこで、今回は、J-SOX評価範囲の選定方法及び、いくつかの事例から評価範囲の考え方を解説します。

 


J-SOX評価範囲の選定基準

まずは、内部統制実施基準で定められている評価範囲の選定基準を解説します。評価範囲を検討する上では、以下の基礎知識を押さえておく必要があります。内部統制の評価範囲は、基礎知識を踏まえ、自社の状況を勘案し、検討・判断を行うべきです。

①重要性のない事業拠点の除外
グループ連結売上高で全体95%に入らない拠点(全体の5%である僅少な拠点)は、評価範囲から除外することができます。この選定基準により、全社統制及び決算統制(全社)の評価範囲が決まります。
②重要な事業拠点の選定
グループ連結売上高で全体の概ね2/3に達する事業拠点を重要な事業拠点として選定します。また、金額的な重要性だけでなく、質的な重要性(経理業務を担うシェアードサービスセンター、ホールディングスカンパニー等)も考慮し、重要な事業拠点を選定します。
③重要な勘定科目の選定
重要な事業拠点における重要な勘定科目を選定します。実施基準では例示として、売上高・売掛金・棚卸資産といった科目が挙げられています。BS科目であれば総資産の5%以上、PL科目であれば売上高の5%以上の勘定科目を選定し、評価範囲に含めるかを検討します。重要な勘定科目に関連するプロセスが業務プロセス統制の評価対象になります。また、重要な業務プロセスに関連するシステムがIT全般統制の評価対象になります。
④個別評価科目の選定
個別に評価すべき科目(リスクが高い、予測・見積が伴う、非定型取引等)に係る業務プロセスを選定します。
各種引当金や減損、税効果会計等が該当します。個別に評価すべき科目の選定により、決算統制(個別)の評価対象が決まります。

 

評価範囲を検討する上で、まずは選定基準を理解することが重要です。また、評価範囲は毎年見直すことをお勧めします。各拠点の売上高等は毎年変動するはずです。その結果、評価範囲から外れる事業拠点等が出てくる可能性もあります。現状の財務状況・事業状況を踏まえ、評価範囲は見直すべきです。

 

評価範囲の選定基準や評価範囲が増えた時の対応については、以下の記事も参考にしてください。
内部統制評価範囲~評価範囲の選定基準と新規対象が増えた場合の対応~

 

J-SOX評価範囲選定の進め方

次に、評価範囲の選定における実務対応上の進め方を説明します。内部統制の評価は、評価範囲の決定後に実施します。そのため、評価範囲は、期初のタイミングで検討します。J-SOXは、当該年度の期末時点での統制状況を評価するものであるため、期初で定める当該年度の予算値を使用し、重要性分析を行います。BS科目等、予算値を算出していないものは、前年度期末の実績値を使用します。
最終的には、期末時点での実績値を基に重要性分析を行い、期中で定めた評価範囲と乖離がないかを検証します。
監査法人との認識の齟齬を防ぐため、評価範囲を検討した結果は文書に残し、合意を得ておくことをお勧めします。
後のタイミングで、評価範囲の追加があると、多大な負荷がかかります。評価範囲の進め方としては、まずは企業側で検討し、対象外とする拠点やプロセスはその理由を明確にし、監査法人に説明・交渉することがポイントです。

 

J-SOX評価範囲の選定事例①~全社統制の評価範囲~

評価範囲選定の基準や進め方を解説しましたが、ここからは、評価範囲検討に関するいくつかの事例を紹介します。
事例を参考とし、皆様の会社における評価範囲検討のヒントにしていただきたいと思います。

 

■持分法適用会社を評価範囲に含める必要があるのか?
議決権所有比率が20%以上50%以下の非連結子会社・関連会社等、持分法の適用対象となりますが、評価範囲に含める必要はあるのかという点について、議論になります。結論としては、持分法適用会社においても、評価範囲に含めるかを検討する必要はあります。通常、グループ連結売上高で全体の95%に入るかで評価範囲を検討しますが、持分法適用会社の場合は、利益剰余金等を基準にし、検討します。評価範囲に含めるかは、金額的重要性および、支配の状況等、質的な重要性も勘案して決定します。

 

■海外子会社も評価しなければならないのか?
グループ内に、海外を含め子会社が多い場合、評価作業の負荷を軽減するため、評価対象拠点を最低限にしたいと考えているご担当者様も多いのではないでしょうか。全社統制は、原則、全ての拠点が評価対象になり、グループ連結売上高で全体95%に入らない拠点(全体の5%である僅少な拠点)は除外できるという基準です。
そのため、海外拠点であっても、重要性が高ければ、評価対象になります。グループ内に子会社が多い場合は、1社1社の売上高を積み上げていき、グループ連結売上高の95%に対する拠点が評価対象になります。
ただし、海外子会社については、評価範囲に含めたとしても、評価対応上は、親会社の統制に依拠する部分が多くあります。リスク評価等、親会社の指示の下で実施されているものが該当します。そのため、海外子会社独自で評価を行うべき内容を見極め、できるでけ効率的に評価を進めると良いでしょう。

 

全社統制の評価は、会社単位になるため、評価範囲に含めるかでどうかで、評価側・被評価側の対応が大きく変わります。新規で評価対象となる拠点は、内部統制の構築も必要になるため、各社の事業状況や売上動向等を適宜モニタリングしながら、評価範囲を選定するべきです。

 

J-SOX評価範囲の選定事例②~業務プロセス統制の評価範囲~

次に、業務プロセス統制の評価範囲検討に関する事例を紹介します。業務プロセス統制は、評価作業の負荷が高いため、慎重に評価範囲を選定する必要があります。

 

■子会社が無い場合、親会社の全ての事業を評価しなければないのか?
グループ連結売上高の全体の概ね2/3に達する拠点を重要な事業拠点として選定しますが、事業拠点=会社単位で考えると、子会社が無い場合、重要な事業拠点は親会社のみになります。
しかし、事業拠点を会社単位ではなく、事業部等の単位で検討することも可能です。このように考えれば、全ての事業に係る業務プロセスを評価対象にするのではなく、全売上高の概ね2/3に達する事業のみが評価対象になり、結果的に、評価範囲を縮小することができます。

 

■売上プロセスが多岐に亘る場合でも、全てのプロセスを評価しなければならないのか?
売上高は重要なプロセスとして評価対象になりますが、売上プロセスが多岐に亘る場合、全てのプロセスを評価すると、多大な作業負荷がかかります。「財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い」には、『重要な事業または財務報告に対する影響の重要性も僅少と判断できる業務プロセスについては、業務との関連性が低く、文書化を行わない場合がある』という記述があります。「財務報告に対する影響の重要性が僅少」とありますが、売上高の5%未満であることが基準になります。つまり、重要な事業拠点における総売上高の5%未満であるプロセスは評価対象外にすることができます。ただし、上記にある通り、重要な事業または業務との関連性が低いという点もクリアにする必要があります。

 

内部統制の実施基準に記載されている内容は曖昧な点もあるため、各企業の状況に応じて検討を進め、監査法人と協議・交渉しながら、評価範囲を決定するべきです。また、評価範囲を見直すことにより、結果として、内部統制評価の負荷を軽減できる可能性もあります。評価範囲の選定事例を参考にしながら、改めて、自社の評価範囲を検討してみてはいかがでしょうか。

 

 

まとめ

・J-SOX評価範囲の選定基準
評価範囲を検討する上で、まずは選定基準の基礎知識を押さえる。
各拠点の売上高等は毎年変動するため、評価範囲は毎年見直す。

 

・J-SOX評価範囲選定の進め方
期初に定める当該年度の予算値を使用し、評価範囲を検討する。
BS科目等、予算値を算出していない場合は、前年度期末の実績値を使用し、重要性分析を行う。

 

・J-SOX評価範囲の選定事例①~全社統制の評価範囲~
持分法適用会社の場合は、利益剰余金等を基準にして評価範囲の検討を行う。
グループ内に子会社が多い場合は、各社の売上を積み上げ、連結売上高の95%に対する拠点を対象にする。

 

・J-SOX評価範囲の選定事例②~業務プロセス統制の評価範囲~
事業拠点を会社単位ではなく、事業部の単位で検討することも可能である。
全売上高の5%の未満であるプロセスは評価対象から除外できる。

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